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真・最強格闘家になろう 第六話「二度目の逮捕」

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楊 梁が4つの団体の男たちについて語り終えた時、加賀八明はふっとため息をついた。

 

「ならほど…つまり、俺は四面楚歌ってわけか」

 

「その通りだ。幾らお前でもこれだけのメンツを一度に相手出来まい。昔馴染みのよしみだ。少しの間匿ってやろうか?」

 

楊 梁がそう言うと、加賀八明はピタリと止まった。そして、笑った。その笑顔はこの世の凶事を全て内包した様な底知れない歪な笑みであった。

 

「楊 梁、俺が負けると思ってるのかい?」

 

楊 梁は思わず、手に持っていた湯飲みを落としそうになった。

確かに、この男が誰かに負ける姿など想像できない…しかし…

 

そう思っていた時に、応接間の扉をノックする音が響いた。

 

「そろそろ来ると思っていたが…」

 

加賀八明はそう言ってニヤリと笑った。

 

扉が開くと、数人の警察官がそこにいた。

 

「加賀八明…お前は違法な額の受講料を塾生から取っていると聞いた。しかも、脱税の疑いもある。暑まで来てもらおうか…」

 

ふふふ…と加賀は笑い立ち上がった。そして、その手に手錠がかけられた。

 

「どうやら匿ってもらう必要はなくなった様だな」

 

楊 梁を見てそう笑った。そして、楊 梁は笑うしかなかった。

 

おら!!!歩け!!!この詐欺師が!!!

楊 梁はそう若手警官に言われながら歩いていく加賀をただ後ろから見つめるだけであった。

 

 

ところ変わって加賀八明道場がある地方都市。都市の中心地にある最大のターミナル駅に4人の男たちはいた。

男達は駅から出て、人でごった返すタクシー乗り場の近くにあるベンチに腰を下ろしている。

 

花木薫

佐山大海

矢部二郎

下衆際矢場男

 

である。

 

「どれ、せっかくだし、観光も兼ねて、名物のエビフライでも食いにいくか?」

 

そう言って下衆際は笑った。

 

この4人、花木、佐山は同期、下衆際は花木達の2年後輩、矢部は1年先輩と歳が近く、4人は幼年部から同じ道場で汗をながし、同じ釜の飯を食った竹馬の友であった。

4人が4人とも突出した才能を見せ、今ではそれぞれ道場の師範代をしている。

 

「下衆際さんの言う通り、腹が減っては何とやら、ご飯でも食べに行きますか…」

 

花木がそう言うと4人は近くの定食屋に行った。

 

4人が入ったのは古ぼけた定食屋であった。

老夫婦が2人で営んでいる小さな定食屋。

こう言うところのが美味いんだよなと下衆際が決めたのであった。

カウンターに1人の老人がいるだけでそれ以外客は花木達4人だけであった。

 

「さて、どうやって加賀と矢吹の首をとる?」

 

エビフライ定食をかき込みながら花木が皆にそう言った。

4人で集まるといつも花木が話の中心になる。下衆際が茶化し、佐山が優しく笑い、矢部が同調し、花木がまとめる。それがこの4人の常である。

 

「普通に考えれば加賀は道場にいるだろう。矢吹の居場所はわからんが、師匠が倒されれば出てくるさ」

 

佐山が味噌汁をすすり、そう言った。

 

ならば、正攻法で道場に行くかとなった時、下衆際がはぁとため息をついた。

 

「先輩方は昔から甘いなぁ…よしんば加賀をぶちのめしても道場なら塾生達が俺らの事五体満足に返さんでしょ。塾長は俺らに首とったら帰ってこいって言うとるんでしょ?ならキッチリと自分の足で帰らんと」

 

「なら、下衆際はどうすべきだと思う?」

花木が聞く。

 

「闇討ちしかないでしょ。武人なら卑怯とは言わなんだろ」

 

「俺は賛成しかねる」

 

佐山がキッパリとした口調で言った。

 

「加賀を倒した後、もしも塾生が襲ってきたら1人残らず叩きのめす。これが超進だ」

 

下衆際がボリボリと頭を掻きながら面倒臭そうに欠伸した。

 

「…ぼ…僕は下衆際くんに賛成です…4人で殴り込みなんて…げ…現実的じゃない」

 

オドオドとした口調で矢部がそう言う。

 

「ではこうしてはいかがでしょう?」

 

花木が手を打って皆を注目させる。

 

「4人で固まって行動するのではなく、各々が各々の方法で加賀を狩る。大人数相手には固まっているよりもゲリラ戦の方が有効。それよりも、なによりも…」

 

花木がそこで言葉を切り、ニヤリと笑った。

 

「ここにいる4人とも我こそが加賀を倒さんと思っているでしょ?なら下手に協力するよりも、競争した方が建設的…」

 

なるほど、それは良い案だと他の3人はうなづいた。

 

戦力を分散することになれど、不安がる者は0人。4人が4人とも己の武に絶大な自信があるからこその結論であった。

真・最強格闘家になろう 第五話「神の依代」

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甘かった。そう琴春菊が思った時、明らかに手遅れであった。

 

ドームでの総合格闘技イベント。そこで琴春菊が相対しているのは、現役横綱の

黒鵬(こくほう)である。

 

モンゴル出身のこの力士は休場なし、10場所連続優勝。破竹の勢いで白星を稼いでいる史上最強とも言われている横綱である。

 

そんな黒鵬と琴春菊はオクタゴンのリングの中で相対している。

 

黒鵬は前代未聞の男であった。

相撲こそが最強であると信じて疑わない彼は相撲協会や横綱審議委員会を説得し、現役力士としては初の異種格闘技戦への参加を表明した。

 

力士何するものぞ。総合格闘技の、ボクシングの、柔道の雄達が黒鵬と試合をしたが、そのいずれも黒鵬が勝利を収めている。

 

そして黒鵬の対戦相手として白羽の矢が当たったのが琴春菊であった。元力士で総合に移行後は負けなし、まさに黒鵬の相手としてはこれ以上ない人選であった。

 

琴春菊も幾ら相手が最強力士とは言え、総合格闘技の経験が浅い黒鵬相手に遅れを取ることはないと踏んでいた。

 

それだけの自信が琴春菊にはあった。

 

美のカリスマ、ジェンダーレスの旗手としての活動も宣伝できるし、これは美味しい試合だぞ。と琴春菊は思っていた。

 

しかし、その自信は黒鵬と向かい合った瞬間に音を立てて崩れ去った。

両手を深く広げた不知火型で構える黒鵬。

ふんどしを巻き、頭はマゲを結っている。

一見すると肥満に見えるその身体は実は全身筋肉の鎧を身につけ、そしてなによりも立ち会ってみて気がつく、黒鵬の肉体的、そして神の依代である横綱が待ち合わせる圧力に気圧されていた。

 

黒鵬が一歩前に出た。続けてもう一歩。

舐めるな。琴春菊は黒鵬の足に向かいローキックを喰らわせた。バチンと骨と骨がぶつかる音が響く。

琴春菊は足に違和感を感じた。人を何度も何度も蹴り、突き、投げてきた彼だからこそ分かる違和感。鉄を蹴った様な感触であったのだ。

 

驚き、黒鵬を見つめると、黒鵬は笑っていた。

琴春菊も笑った。絶望のあまりである。

 

黒鵬の張り手が飛び、琴春菊の顔にぶち当たった。破裂音が場内に響く。観客のボルテージがマックスに上がる。

 

その一発で琴春菊の100キロを超える巨大は後方に吹っ飛び、金網にぶち当たった。

レフェリーが慌てて止めに入る。一発で勝負を決してしまったのである。

 

寝っ転がって鼻血を垂らしながら、朦朧とする中、琴春菊は自分の顔を触って確認した。

 

「良かった…顔…ある…」そう言って琴春菊は意識を失った。

 

 

勝利者インタビュー。

リング上でマイクを渡された黒鵬が観客を見渡して言う。

 

 

「皆さん、分かって頂けましたか。相撲こそが最強なのです。おい、加賀流の奴ら見てるか…俺らが最強だ!!!異論があるのなら、いつでも相手してやるぜ!!!」

 

その際の写真とコメントは翌日のスポーツ新聞の一面を飾った。

真・最強格闘家になろう 第四話「鬼」

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講道館柔道の歴史には鬼と呼ばれる男が3人いた。

1人は柔道の創始者嘉納治五郎の高弟である横山作次郎。明治神宮大会を3連覇した牛島辰熊。そして、歴代最強柔道家と言われ、力道山との疑惑の勝負により表舞台を去った木村政彦である。

 

木村政彦から数えて50年以上の時が経った今。新たに鬼と呼ばれる4人目の男が出現した。

 

それが、豊田一光(いっこう)である。

 

豊田は鬼神の様な強さで全日本大会4連覇、そしてオリンピック柔道無差別級2連覇を成し遂げた稀代の柔道家である。

 

そんな豊田が記者会見に現れた。

先のオリンピックで金メダルを獲った為の囲み取材であった。

 

報道陣の前に現れた男は異様な姿であった。

金髪を撫でつけ、顔は化粧をしている。

濃いアイシャドーに潤んだピンクの唇。

そう、豊田一光は美のカリスマとしても知られており、そのジェンダーレスな見た目と愛嬌のあるキャラクターはお茶の間で人気となっている。

 

「豊田さん、やりましたね、2連覇。今のお気持ちをお聞かせください」

 

記者の1人がそう聞くと、マイク越しに豊田は答えた。

 

「もぉおお〜ヤダァー!!!強烈ぅう〜!!!」

 

全く要領を得ない回答であるが、会見場は笑いで溢れていた。

 

「最強と言えば、最近話題の加賀流ですが、戦ったら勝てますか?」

 

ある記者が豊田にそう聞いた。その瞬間であった、豊田の顔から笑みが消えた。

 

「……技あり」

 

豊田は無表情で一言だけそう言った。

豊田の周りの風景だけがグニャリと曲がった様に見えた。彼の殺気が漏れ出て、そのように空間を歪ませているのである。

 

技あり…とは、つまり、どう言うことなのか?

皆、そう思ったが、殺気だった豊田の前では誰も聞くことが出来なかった。

 

「ヤダァ〜!!!加賀流とかぁ〜分かんないけどぉ〜、私が負けるわけないでしょぉおお!!!!」

 

そう言うと豊田は目の前のマイクを手に取った。すると彼は雑巾しぼりの要領でマイクをしぼり上げた。

 

鉄で出来たマイクスタンドがねじ曲がっていく。完璧にねじ曲げたマイクをポイと投げ捨てながら豊田はこう言った。

 

「一本取ってえい、技ありぃいい!!!」

 

豊田は笑みを浮かべていたが、その笑みの下で燃えたぎる様な怒りを隠し切れていなかった。

 

取材はここまでとなった。

 

豊田一光。通称鬼の一光は腹に据えかねていたのである。

 

古くは木村政彦の敗北。そして現代においては加賀流のせいで、最強最新たる柔道が軽んじられている。それが我慢できなかった。

 

取材を終え、控室に戻る豊田一光。

その隣には豊田のコーチである三谷満具路武(まんぐろぶ)とセコンドである日系ブラジル人のナーガグランデーバがいた。

 

「ちょっと一光、さっきのどうしたの?」

三谷が豊田に声をかける。

 

「そうよ、一光、あんた、ちょっと熱くなりすぎ」

ナーガも横から豊田をなだめる。

 

「…だけ」

 

豊田一光のくぐもった声が漏れ出た。

 

え?聞き取れなかった為、三谷とナーガが聞き返す。

 

「加賀流の首、とるだけ〜!!!」

 

豊田はその言葉を残して行方をくらませた。

 

 

真・最強格闘家になろう 第三話「寿日本プロレス」

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寿日本プロレス。

設立から65年の老舗団体である。

過去数年間営業不振が続いていたが、棚伏哲人などのイケメンレスラーが大人気となり、今では名実ともにトップのプロレス団体である。

 

とある体育館。ここで寿日本プロレスの巡業が行われていた。

 

会場は超満員である。

 

メインイベントは

棚伏哲人対前田ヴァギナ。

 

絶対的なエース棚伏といぶし銀の強さで定評の前田の試合はわきに湧いた。

 

2人とも鋼のような筋肉の持ち主であった。

 

棚伏は彫刻の様な美しい逆三角形のボディを持ち、一方、前田はあんこ型と言われる脂肪の乗った圧のある筋肉の持ち主であった。

 

顔も全く違う。棚伏はアイドルの様な端正な顔つきであるが、前田は髭面に小さな目、ひしゃげた鼻、どう見ても色男には見えなかった。

 

2人の試合は開始、25分。棚伏のボディスラムからのピンホールドで決着がついた。

 

マットの上で大の字で転がる前田。

対照的にトップロープに登り、観客にガッツポーズを見せる棚伏。

 

会場から棚伏コールが湧き上がる。

 

試合後、控室で前田はタバコを吸っていた。とんでもない肺活量なのだろう。一息でタバコの3番の1が灰になる。

それは異様な光景であった。準備をするレスラー、試合を終えたレスラー、そして関係者でごった返し、足の踏み場もないほどの雑多な空間において、前田の周りだけ誰も通らなければ何も置かれていなかった。

 

そんな中で1人パイプ椅子に座り、タバコを吸う前田である。

 

前田の前に棚伏が現れた。

 

「前田さん、試合ありがとうございました」

 

そう言うと、棚伏は深々と頭を下げた。

 

「おー、棚伏ちゃん、いやー、よかったよ、ボディスラム。でもな、少しだけタイミングがわりぃ…もちっと練習積みねぇ…」

 

 

そう言って、前田は棚伏の肩をポンと叩いた。

 

棚伏が恐縮し切って、ハイッッと大声で答える。

 

団体のスター選手がである。

 

その場にいた人間たちに緊張が走る。誰も前田の方をジロジロと見るものはいないが、全員が前田と棚伏のやり取りに注目していた。

 

 

前田ヴァギナ。齢40歳。中堅レスラーである。

技はあるが花はない。そう言われ続けて20年。

女性人気はないが、男性プロレスマニア達には知る人ぞ知る名選手として人気である。

 

そんな彼には団体のレスラー達しか知らない異名がある。決して外部に漏れないその異名。誰もが震え上がるその異名は…

 

『真剣(セメント)最強の男』

 

昔、プロレスがゴールデンタイムで放映されていた頃、プロレス道場に道場破りがよく来た時期があった。

 

街の喧嘩自慢がくるのだ。

 

やれ、プロレスは八百長だ。

本当に強いわけがねえ

台本がないと奴らは戦わない…と

 

そんな輩が当然寿日本プロレスにも現れる。

そいつらを半殺しにしていたのが、当時若手であった前田ヴァギナである。

 

寿日本プロレスと揉めると前田が出てくる。

これは裏社会では有名な話である。

前田にはこんな伝説がある。

 

寿日本プロレスが暴力団とみかじめ料で揉めたことがあった。

そんな折、寿の社長であるアントキノ猪狩と共に暴力団を相手取り大立ち回りを見せたのが前田である。

 

前田はヤクザに拳銃を突きつけられても笑っていたと言う逸話が寿日本プロレスには残っている。

 

寿日本プロレス最強は?と言う問いに対して関係者は口を揃えて『棚伏』と答えるが、裏での見解は違う。『前田こそが寿最強である』ことは揺るぎない事実であった。

 

「前田さんッッ!!!」

 

緊張し切った面持ちで研修生のジャージを着た若手レスラーが前田に話しかける。

彼は直立不動で気の毒なほど背筋をピンと伸ばしていた。

 

「楽にしねえ…」

 

前田がそう言うと、少しだけ若手の緊張が解けたようであった。

 

「前田さん…社長がお呼びです…」

 

「ほぉ…」

 

 

デカイ男だった。2mはあろうかと言う大男だ。

髪の毛を全て後ろに流している。野性味溢れるその顔はどこか愛嬌もある。

寿日本プロレス社長アントキノ猪狩その人である。

アントキノと前田は会場内にある応接間にいた。

アントキノが立って外を眺めている。入り口でゆったりと前田が立っていた。

 

「棚伏のおかげで今日も超満員だったな」

アントキノが口を開いた。

 

「ですね。奴は日本で一番客呼べるレスラーですわい」

 

「最強ではないがな」

 

「何言ってんですかい、奴は寿のヘヴィー級チャンプですぜ。つまり最強って意味ですわ」

前田がヘラヘラと笑った。

 

「1231事件」

アントキノ猪狩が外から目線を外さずに言った。

前田の顔から笑みが消えた。

 

1231事件。それは数年前の大晦日に格闘技界を震撼させた事件である。

格闘技の祭典「SUNSET」大会における最強レスラー棚伏と最強ボクサー生田省吾の最強決定戦。

 

その結末たるや、なんと棚伏、生田ともに乂門と言う格闘技テロリスト集団によって打ち倒されると言うものであった。

 

「世間は知ってしまった。プロレスが最強ではないことをな」

アントキノは尚も目線を外さずに言った。

 

「で、どうするおつもりですか?」

 

「簡単なことだ。プロレスは乂門に負けたが、その乂門は加賀流に負けた」

 

「加賀流潰してこいってことっすか?」

 

やっとアントキノは視線を前田に移した。

その顔は口の端が切れんばかりに笑っていた。

 

「そこまでがそこいらの格闘家の思考回路だろうな。でも俺たちはプロレスラーだ。プロレスラーならこれをビジネスチャンスだと考える」

 

「ほぉ…」

 

「炎山(えんざん)キヨシ。知ってるだろ?」

 

炎山キヨシ。元アマレス高校生日本代表にして寿日本プロレスの若手研修生である。

綺麗な逆三角形の筋肉に、金髪の長髪をなびかせた色男であり、デビュー前にも関わらず、マスコミやファンから注目されている選手である。

 

一説には棚伏二世とまで呼ばれている。

 

「あの棚伏二世って言われている坊ちゃんですよね」

 

「奴は棚伏二世になんてする気はねえ…」

 

「と言いますと?」

 

「奴はアントキノ二世だ」

 

これには前田も言葉を失った。デビュー前の新人を社長の後継者として指名している訳である。

 

「炎山のカリスマ性、実力、話題性は凄まじいものがある」

 

「なるほど、分かってきましたよ。社長。俺が加賀流半殺しにして、炎山が加賀流ぶっ潰したってことにするつもりでしょ」

 

「さすが前田…優秀なプロレスラーだ」

 

「でも、世間を騙せますかね?加賀流の奴らが炎山ではなく、俺がやったって言う可能性もありますぜ」

 

 

「敗者の弁には昔から誰も耳を貸さんものさ。それにそれならそれでいい。うちは『加賀を倒した炎山』と『黒幕かもしれない前田』を手に入れられるわけだからな」

 

そう言うと、アントキノは財布から札束を取り出した。

なんと帯がついた100万円である。

それをドンと机の上に置く。

 

「炎山と共に飛べ、前田。これでしばらくはやりくりしろ」

 

「…吸っていいですか?」

 

前田の問いにアントキノは頷いた。

前田はタバコに火をつけて、一口二口吸い込んだ。そして紫煙を吐き出す。

 

「加賀流ってのは半端じゃねえですよ」

 

「前田ヴァギナが弱音か」

 

「言え、そうじゃねえ、やるって決めた事を俺は成し遂げなかったことがねえのはご存知でしょう?でも、今回は1人じゃ手に余りそうでね、炎山以外にも駒をもう一つ用意して下さるとありがてえ」

 

「ほう…誰だ」

 

「桜井ですよ…桜井数也です…」

 

なるほど、そうきたか…とアントキノは嬉しそうに笑った。

真・最強格闘家になろう 第二話「超進塾」

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日本、いや、世界最大規模の空手塾、

『超進塾』

過去、猫田戦やガンギマリ敬之も所属していたその空手界の虎達が掲げるスローガン。

 

それが

『超進塾は最強たれ』

 

それを実直守り続けてきた男たち。

日本最大最強の武力集団。

それが超進塾である。

 

その超進塾総本部ビルの館長室。

そこには応接用のソファとテーブル以外はベンチプレス、サンドバックがあるのみであった。

異様な光景である。

そこに一人の男がいる。

横たわり、ベンチプレスを上げている。

見ると、その重さは200キロである。常人にはまず持ち上げることは不可能な重さだ。

 

それを軽々と男は何度も上げている。

見ると、男は上半身裸で下は道着を着ている。

筋骨隆々。肥大化したそれはボディビルのような美しさはなく、ただゴツゴツとし岩のようである。

 

その男は太かった。どこが?と言われれば、全身がである。太い指、太い胸筋、太い腹筋、太い太もも、太い首、鼻もそして眉も。全身くまなく筋肉がついていた。

 

この男こそ、世界塾生数60万人の超進塾塾長、

『陀羅尼(だらに)太(ふとし)』齢60歳である。

 

陀羅尼太。格闘技をかじった事のある人間で彼の名を知らぬ者はいない。

彼にはさまざまな伝説がある。

曰く牛を素手で殺した。曰く100人を相手取り倒した。曰く暴力団を壊滅させた。

生きる伝説である。

加賀達喧嘩凸トーナメントファイター達を裏格闘技界の雄と呼ぶのなら、陀羅尼太は表格闘技界の帝王である。

 

そして、陀羅尼の隣には一人の男が立っている。

 

長髪の美男子である。

肌が女のように白く、またその顔も美形であり、その長身と広い肩幅がなければモデルと言われても信じてしまう見た目であった。

 

彼の名は『花木 薫』

超進塾トーナメント2位の実力者にして筆頭塾生として、陀羅尼太の秘書兼付き人である。

 

「花木ぃいいい…もう一回言ってみろや」

 

「はい、塾長。私を含む4人の退塾をお認め頂きたい」

 

そう言うと花木は半紙を道着の胸元から取り出した。

 

そこには退塾届けと大きく書かれており、4人の名前と名前の下には血判が押されていた。

 

男達の名前は以下の通りである。

花木 薫

佐山 大海

矢部 二郎

下衆際 矢場男

 

 

「おいおい、こりゃ超進の主力級達じゃねえか…おめえら、うち抜けて何しようってんだい?」

 

陀羅尼太は起き上がり、テーブルの上に置いてあったウィスキーを手に取った。

陀羅尼はウィスキーの注ぎ口にサッと手刀を加える。すると、スパリと瓶は切れた。

50度はあろうかと言うウィスキーを陀羅尼は一息で飲み干す。

 

花木は陀羅尼の問いかけには答えず、ただ口元の端を吊り上げて笑った。

 

「加賀流だな」

 

プハっと陀羅尼はウィスキーの香りが混じったゲップを吐き出しながらそう言った。

 

「その通りです」

 

花木は笑った。

 

「超進唯一の鉄の掟、それが『超進塾は最強たれ』。しかし、先の乂門騒動を加賀流が片付けてからと言うもの、世間一般の最強の概念は加賀流になってしまいました。それが我々には我慢出来んのです」

 

「おい、加賀流にだけは手ぇ出すなって俺が言ってるのは知ってるよな?」

 

陀羅尼太はソファにどかりと座った。

すると、彼は自らの右目に手をやった。

彼は人差し指を眼窩に差し込んでえぐり、右目をコロリと取り出したのである。

 

「義眼だ。これは加賀流前当主である加賀六助との戦いで奪われたもんだ。あれはな、試合なんて言う生優しいもんじゃねえ…殺し合いよ…加賀流に手を出すってことは加賀流と超進が最後の1人になるまで殺し合うってことなんだぜ…そりゃお前、戦争だ。俺は戦争は起こせねえよ」

 

「それ故の退塾です」

花木の口調からは確固たる決意が感じられた。

つまり、全責任は超進ではなく、自分達が取ると言うことである。

 

「決死隊ってわけか…」

 

「ええ、4人とも生きて帰れるとは思っておりません。これより、我々4人は加賀八明と矢吹晴男の首を討ち取る事のみの為に命を捧げる所存です」

 

「そこまでの覚悟か…」

 

「塾長…初めて命に背くことお許しください」

 

「分かった」

 

そう言うと、血判状を陀羅尼は受け取った。

 

「本日をもって、花木薫、佐山大海、矢部二郎、下衆際矢場男、4名の退塾を認める。しかし、退塾は加賀八明と矢吹晴男の存命期間に限る。これが条件だ」

 

「塾長…!!!」

 

「2人の首…もってこいや…」

 

「押忍ッッ!!!」

 

花木は陀羅尼に一礼して館長室を後にした。

 

花木はすぐさま3人に電話をかけた。

 

 

「館長が認められたか!!!」

 

連絡を受けた下衆際矢場男は叫んだ。

下衆際は目は釣り上がり、頭は短く刈り込んでいて、口は大きい。

長身でよく絞り込まれた身体をしていた。

 

「ああ、加賀と矢吹の首を持って帰ってこいとさ」

 

「ギャハハハハ!!!腕がなるぜ!!!」

 

下衆際は笑った。彼は今ランチを楽しんでいた。スーパーの試食品コーナーでおばちゃんを脅迫し、試食品のウィンナーを全て平らげていたのである。

 

「ねぇ、お兄さん…勘弁してよぉ」

 

スーパーのおばちゃんが泣き出しそうな声でそう言う。

 

「うるせえ…次はフルーツもってこいや…オラァ…」

 

下衆際矢場男。超進塾トーナメント4位の実力者である。黒い噂が絶えないことから通称『悪童』と呼ばれている。

 

 

 

「やっと…この時が来ましたか…」

次に花木から連絡を受けたのは矢部二郎であった。

 

矢部は幼年部の子供達にも熱心に空手を教えている優しい男だ。身長は低く、細身であるが、粘り強い空手が持ち味で超進トーナメント3位の実力者である。

 

一見すると大人しい、弱々しい青年に見える。

 

彼は彼の住むアパートの大家さんである老婦人と仲良しでよく彼女とお茶をする。

 

花木から連絡を受けた時も老婦人と午後のお茶を楽しんでいた時であった。

 

「矢部さん…いかれるのですね…」

 

老婦人は矢部に語りかけた。

 

「はい、もう戻ってこないかもしれません…」

 

矢部はお茶をひとすすりした。

 

矢部二郎。通称『巨木』、推参の時である。

 

 

 

「わかった…」

 

花木からの連絡を受け、佐山は短くそう言うと携帯を切った。

 

佐山大海(たいかい)は中肉中背である。

特にこれと言った特徴のない男であった。

顔は切れ長で、浅黒かった。

普通。十人並みの見た目である。

しかし、それは彼を正面から見た時に限る。

後ろから見たとき、彼の肥大化したヒッティングマッスルは異常としか言いようがなかった。

 

彼は今、超進塾支部のとある道場に1人いる。

彼の目の前には戸板に置かれた巻藁がひとつあるのみである。

 

腰を落とし、右手を引く、左手で狙いを定める。呼吸を意識する。吸う、吐く、吸う、今!

 

右手を思い切り巻藁に叩きつける。

 

正拳突きである。巻藁と拳がぶつかる。ゴッと言う音が道場に響き渡る。

 

彼はこれを1日に1000回行う。

 

佐山大海。トーナメント1位の男。今現在、現役空手家の中で最強の男である。

 

「加賀…か」

 

佐山は呟いた。

 

通称『菩薩』。佐山大海の空手が解禁されたときである。

 

真・最強格闘家になろう 第一話「集う男たち」

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ハンターハンターより

 

 

加賀八明道場の前に一台の車が止まった。

黒塗りの高級車であった。

そこから一人の男が出てくる。

男はボディガード二人と共に道場の中に入っていった。

 

 

「まさか、あんたが訪ねてくるとはな…」

 

加賀八明とその男は応接室でテーブルを挟み向かい合って座った。

男は出された茶をすする。

 

「うん、美味いな」

 

男は呟く。この男こそ、かの喧嘩凸トーナメントの出資者であり、

 

世界有数の資産家、

楊 梁(やん やん)

 

であった。

 

「今日はどのような用で来たんだ?」

 

加賀も茶を一口飲み、楊 梁に聞いた。

 

「加賀よ…お前に危機が迫っている。それを伝える為に来たんだ」

 

ピクリと加賀の手が一瞬動く。

 

「聞かせて貰おうか…」

 

「お前ら加賀流は派手にやりすぎたんだよ。お前と矢吹晴男の命を狙う輩が現れたんだ。お前らが掲げる最強の称号を強奪せんと4つの団体が動き出したのさ」

 

 

「ほう…」

 

楊 梁は話し始めた。

それは彼が資産と人脈をつてに集めた情報であり、新たな嵐を告げる風であった。

真・最強格闘家になろう 目次

 

最強の称号を手に入れた矢吹晴男。

しかし、それを狙う男たちが現れる。

風雲急を告げる新シリーズ。

 

最強強奪編

真・最強格闘家になろう 第一話「集う男たち」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第二話「超進塾」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第三話「寿日本プロレス」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第四話「鬼」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第五話「神の依代」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第六話「二度目の逮捕」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう第七話「二匹の若虎」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第八話「強襲」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第九話「引力」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第十話「ガチのプロレスラー」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう第十一話「兜合わせ」 - 有限会社MUGEN本舗

真・最強格闘家になろう 第十二話「道場破り」 - 有限会社MUGEN本舗