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最強格闘家になろう 第二十六話「便打」

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月が街を照らしている。

冷たい外気のせいで霞がかった公園に1人の男がいた。

加賀七明は武道館を出て、タバコを燻らせていた。

弟子の吉岡が倒れた今、苦々しい思いを胸中に抱えていた。

「ついに、ワシは弟に勝てへんかったんか…」

最強の男、加賀八明は七明の実の弟であった。

七明の人生はこの天才との戦いの日々であった。そして、あの男達との戦いの日々でもあった。

あの男達とは…

通称「乂門(がいもん)」

あの男達と加賀一族との百年にも渡る因縁を思うと七明は目眩がしそうになった。

 

タバコの煙をかぷりと吐き出す。

「やはり…来たか…」

七明がそう言う。

七明の後ろには男が立っていた。

「いいのか?トーナメントは?」

男は黙っていた。七明が振り返る。

「ほう…お前が乂門の1人だったとは…」

2人は向かい合いった。

 

 

第六試合、柳田國房対ジャックマンマー

 

柳田は黒いシャツとジーパンに身を包み、髪はオールバックにしてなでつけていた。

柳田は高揚していた。人生の殆どの時間を快楽流空道の取得に注いできた。

人を殺すための拳法、日の目を見ることのない拳法、決して表には出ない拳法。

それを遺憾なく発揮してもいいのだ。咎める人間はいない。この男に全力で観衆の中叩き込んでいいのだ。

 

ジャックマンマーは身長200センチはあろうかと言う大男だった。

金髪を短く刈り込み、青い瞳は人形の様に冷たかった。

この異国の人間はボクサートランクス一枚を履き、全身を筋肉の鎧で固めており、浅く前傾している。

おそらく、総合格闘技のヘビー級の選手なのだろうと柳田は思う。

167センチの柳田とは大人と子供ほどの差がある。しかし、柳田にとっては好都合だった。

ジャックは自身を侮るだろう、低身長のアジア人に遅れを取るわけがないと、そして、前傾姿勢、おそらくタックルを狙っているのだろう。

明らかにスポーツマン的なファイトスタイルである。暗殺武術の達人、柳田とは真逆である。

 

見せてやる。ルールがない、試合ではない、死合と言うものを。

柳田は高揚していた。

 

試合開始の合図と共に柳田は自身の肛門に手をやった。それと同時に即座に柳田の上半身は風船の様に膨らんだ。

空気を肺に溜め込んだのだ。

そして、自らの屁を手で握り込み、屁が包まれた拳を口元まで持っていく、その刹那、肺に溜め込んだ空気を一気に放出する。

屁は一直線にジャックの鼻まで飛んで行った。

 

鼻にモロに当たった屁にジャックは顔を歪めた。

この柳田の屁は普通の屁ではない。

昨晩、柳田はニンニク、牛肉をたらふく食べて臭さを増している。その匂いたるや化学兵器と言っても差し支えないレベルであった。

 

一瞬、時間にすれば1秒の何十分の1であろう、その刹那とも言える時間、ジャックは気を失っていた。

そして、その神をも見逃す一瞬を柳田は見逃さなかった。

ダッシュではない、自分の重心を上下させ、助走なしでその身体は飛び上がり、ジャックの間合いに飛び込んだ。

決してフットワークではない、日本古武術の足運びであった。

 

間合いを詰めた柳田はまた肛門に手をやり、握を握った。そして、今度は直接ジャックの顔面に握りっぺを押し当てた。

が、その手をジャックは造作もなく捕まえた。

 

「鼻で呼吸しなけりゃ効かねえ」

そう言うとジャックは小柄な柳田を片手で放り投げた。技と呼べるものではなかった。

ただ、握った柳田の手を無造作に放り投げただけだった。

しかし、それだけで柳田は飛んだ。

もんどりうつ柳田。

立ち上がりながら、柳田は後悔していた。

冷静さを失っていた。

はじめての表舞台に舞い上がっていた。

情けない、素人でもあるまいし、力を出し惜しみ、握りっぺだけで倒そうなどと。

 

「快楽とは放出だ。何かを出すのはとても気持ちいい…あんた臭いのはすきかい…」

柳田はそう言って笑い、自身のパンツの中に手を潜らせた。

腹を脱力して、腰から先がないものとイメージする。そうするとよく出る。

そして、引き抜いた手には黒々としたミソが付いていた。

「クソだ…」

これこそ、快楽空道武術最強の奥義、

便打であった。

 

ゆらりと柳田の身体が動く、柳のようにしなやかに、彼はゆるゆるとジャックとの間合いを詰めていった。

そして、刹那、柳田の手はジャックを捉えようとしていた。くそまみれの手をジャックの顔面に叩きつける。狙うは鼻の穴、口、そして目だ。どれかに入れば化学兵器並みの柳田の排泄物がジャックの人体にもたらす悪影響は計り知れない。

完璧なタイミングであった。

柳田の腕が美しく、限りなく早く、ジャックの顔を打たんと弾き出された。

 

柳田の行動に、考えに一切の過ちはなかった。しかし、柳田に誤算があるとすれば、柳田の想像よりも、ジャックの拳が強くて早すぎたのである。

柳田の拳が当たる寸前に、ジャックの無造作に突き出された、ジャブというにはあまりにもお粗末な一撃が柳田の顔面を捉えた。

ジャックの一撃は、美しいフォームから繰り出されたものではなかった。

ただの素人のテレフォンパンチである。

しかし、それが異様に早く、そして、異様に力強いのである。

 

柳田はぶちのめされ、身体は大きく後方へと吹き飛んだ。

 

「磨いた五体以外の何ものかに頼みをおく、そんな性根が技を曇らす」

ジャックは流暢な日本語でそう言った。

 

そして吹き飛び、完全に伸びている柳田の上にまたがり、自身のボクサートランクスを脱ぎ捨てた。

「快楽とは力の解放だ…力みなくして解放のカタルシスはありえねえ」

ジャックはそう言うと、ブリブリとクソを柳田の口目掛けてひりだした。

 

目を覆いたくなる光景であった。

こんなことが起こっていいのか?

柳田の顔はクソで塗れてしまって、もう顔の判別がつかない。

 

ジャックが全てをひりだすと、立ち上がり、観客に向かって両手を上げて勝どきをあげた。

 

観客は思い知った。これこそ、正体不明、ブリットファイター、ジャックマンマーの戦い方なのかと!!!

 

第六試合!!!勝者!!、ジャックマンマー!!!