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最強格闘家になろう 第三十四話「因縁決着」

原の隆起した上半身が露わになった。

 

そこには大きな文字で一言

「ベーオウルフ」

と書かれていた。

 

ベーオウルフとは古代、ドラゴンを倒した英雄の名である

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ベーオウルフ

 

ドラゴンにとっては天敵の男である。

ドラゴンを自称する藤浪にとってはこの言葉ほど恐ろしいものはない。

 

藤浪は全身から血が引いていくのを感じた。

これはドラゴンを自称する藤浪からすれば脅威であった。

神の如き力を誇るスーパーマンクリプトナイト石で常人ほどの力になってしまう様に、この言葉の前に藤浪は無力であった。

 

こいつ、ここまでドラゴンのことを調べてきているとは…全身から冷や汗が噴き出た。

 

「ドラゴンってのは昔っから滅ぼされるもんなんだよ…お前がドラゴンなら俺はベーオウルフに仮装してやるぜ…」

 

原はそう言うと藤浪ににじり寄った。

お前、身体に文字書いただけじゃねえか!!どこが仮装だふざけんな!!

と藤浪は叫びたかった。しかし、叫べなかった。恐怖のあまり声が出なかったのである。

 

ただの文字ですら自らをドラゴンに近づけ、そしてドラゴンと自称する様までになった藤浪に対して効果は抜群であった。

 

ゴキブリに逃げ惑うOLの如く、藤浪はにじり寄る原から逃げた。

 

神話の世界ではドラゴンは古今東西負ける宿命にあるのである。

 

尚も原は藤浪を追った。そして藤浪は逃げた。

気がつけばマットの端、あと半端でも外に出れば場外である。

 

「俺の名前はベーオウルフだ!!!貴様の名はなんだ!!!」

 

原が叫ぶ。

 

全身から冷や汗を出し、あわや場外まで逃げた

ここで、ここで終わりなのか!?

藤浪の胸にこれまでの過去が去来する。

 

決して目立つ少年ではなかった。

いつもみんなの輪に入れず、遠くから遊ぶ学友を眺める。そんな少年だった。

 

友達が少なく、それ故か性について目覚めるのも遅かった。

 

最初にそれを見たのは中学生の時だった。

フラッシュサイトを漁っていた時、偶然海外のサイトに飛んでそれを見つけた。

雄々しいドラゴンと色気のある車。

魅了された。

ドラゴンの様に強くなりたいと思った。

それからはただ理想のドラゴンに近づく為だけの生活であった。

ドラゴンドラゴンドラゴンドラゴン。

いつしかドラゴンカーセックスの日本コミュニティの会長になり、部下も出来、ドラゴン一族のリーダーなんて言われる様になった。

ドラゴン一族のリーダーになって部下は出来ても、友達は出来なかった。ずっと1人だった。

結局、みんなが遊ぶのを遠くで見ているだけの少年のままだった。

 

でも、今、目の前に1人の男が立っている。

この男とは何度も対立を繰り返してきた。

何度も憎しみあってきた。

この男は何度も俺の前に立ち塞がってきた。

 

この男は圧倒的に不利な状況を何度も覆し、その度俺に立ち向かってきた。

そして、今、最強を自負する自分が追い詰められている。

 

ここまで自分に向き合ってくれた男がこれまでいただろうか?

 

ベーオウルフ。言葉だけでも足がすくむ。

自分をドラゴンに近づけてきたのが裏目になるとは、しかし、恐怖心は無くなっていた。

代りに、自分でも不思議で仕方がなかったが、感謝の気持ちが湧いてきたのを藤浪は感じた。

 

藤浪は笑った。

 

「俺はドラゴン…藤浪は ドラゴンだ!!!」

 

藤浪は一歩踏み込み、拳を原の顔面にに叩き込んだ。

自分が身につけてきたドラゴンカーセックスの奥義もクソもない、ただの振りかぶっただけのパンチだ。

 

原もそれに呼応する様に全力で藤浪の顔面に拳を叩き込む。

 

最早、それは試合と呼べるものではなかった。

 

殴ると、また殴られた方が殴る。

それを永遠と繰り返すのである。

観客は一撃が入るたびに歓声を上げた。それは絶叫だった。2人の男に対する最大の賛辞であった。

 

原は自分の顔が腫れ上がって膨れていくのを感じた。

ゴツン、顔に拳が入る。そして自らも藤浪の顔面をぶん殴る。ゴツン。

 

不思議と不快感はなかった。

この男を憎んだ。酔って暴れてハロウィンを荒らすハロウィン力士達に絡んでくる変態。

それが原が藤浪に抱いていた印象であった。

 

しかし、この変態は気高かった。

敵である俺に試合中喝を入れてくれた。

あのお陰で俺は琴春菊に勝てた。

 

不思議な男だ。忌々しい奴だ。愛しい奴だ。腹立たしい奴だ。

 

痛い、顔中が痛い。それでもこの時間がずっと続けばいいのにななんて考えている自分がつくづく笑えた。

 

ゴツン、藤浪の拳が顔に入る。

その瞬間、意識が原の体から抜け出ていった。

その刹那原は思った。

 

なるほど、俺たちは抱きしめ合う代りに殴り合うんだな…

 

 

原がマットの上に倒れ込む。

勝者、藤浪ドラゴン!

 

すぐさま、大会スタッフが担架を持ってマットの上に上がってきた。

 

「喝!!!」

 

藤浪は叫び、スタッフ達は止まった。

 

「この男、俺に運ばせろ…」

藤浪は原を抱き起こすと、肩に担いだ。

 

藤浪が歩き出すと、観客はスタンディングオベーションでそれを見送った。

 

観客の歓声が、拍手が、武道館にこだましたのであった。