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最強格闘家になろう 第四十三話「我山太一と乂門」

 

我山太一を含む3人の乂門はフードを目深に被り、スティーピーワンダー、加賀八明と対峙していた。狭くて暗い、関係者用通路である。

 

真島を抱えていた乂門の1人が我山の後ろから加賀とスティーピーの前に歩み出た。

 

「我山さん、先に行ってて下さい。こいつらの相手は俺に任せて下さい」

 

その男はフードを取った。

ゴツゴツとした巨大、肌は浅黒く、純血の日本人ではなさそうだった。

 

 

「おい、加賀、スティーピー…俺は黒人で家には共産主義のポスター貼ってて極右翼で有名新興宗教の信者で徴兵経験があり、団地住まい、オマケにゲイだ…俺をぶん殴ると世間が黙っていないぜ?」

男はニヤリと笑った。

 

その釣り上がった口元目掛けてスティーピーが鉄拳を叩き込んだ。

「シャラクセェ!!!オレハオマエミタイナヤツガイチバンキライダッッッ!!!」

倒れ込んだ男にスティーピーは馬乗りになってボコボコにする。

「待て!!!スティーピー!!!」

加賀が声を張り上げる。

「俺もこう言う奴は嫌いだ、殴らせろ」

「イエス!!!マスター!!!」

死ぬ!!!くそ!!!世間舐めんなよ!!!

2人は男をボコボコに蹴飛ばした。

 

「しまったッッッ!!!」

加賀が叫ぶ。2人が男をボコボコにするのに夢中になっている間、我山ともう1人の乂門は真島を運び出し、その姿はどこにも見当たらなかった。

「奴らの作戦勝ちってところか…」

加賀は顔を歪めて呟いた。

 

トイレで伸びていた原龍徳は目が覚めた。

全身が痛んだ。本郷太郎に後ろから全身を甘噛みされたのである。その絶妙な痛みと気持ち悪さで気を失っていたのだ。

原の目の前には1人の男が立っていた。

「お前…確か…?」

原は男を見て呟く。男は原に手を差し伸べて立ち上がらせた。

 

 

山口・ヴィクトロヴィッチ・タッカーシーは選手入場口に立っていた。

全身が痛んだ。痛むだけではなく、熱を発していた。満身創痍。顔面の骨も折れている。

それでも戦わねばならない。前田は棄権しろと言った。

しかし、オーディエンスが待っている。

自分が戦うのを待っている。誰かが待っているなら戦わねば。それがサンボマスター山口の矜持であった。

これを反すれば山口は山口でなくなってしまう。

俺が俺であるために戦い続けなきゃならない。

だから行かなくては。

 

山口は選手入場口から光とオーディエンスが待つマットの上へと向かっていった。

 

光輝く試合会場の上、マットの上で本郷太郎を待った。

しかし、いくら待ってもこなかった。

 

スタッフが山口に近づく、

「試合はあなたの不戦勝です!!!」

「な!?」

思わず山口は声を上げる。

「本郷太郎は戦う意味がなくなったと言って試合を棄権しました!!!」

スタッフが尚も続ける…

「そんな…そんな」

そんな馬鹿なことがあってたまるか!!!

山口は叫びそうになった。その次に怒りが込み上げる。

自分の決意を自分の矜持をコケにされたのだ。

山口はその場に立ち尽くした。

 

 

その時、本郷太郎は医務室にいた。

医務室には本郷太郎の他に1人だけ、気を失った矢吹晴男がベッドに横たわるだけであった。

 

晴男の眠る姿を眺め、本郷太郎は舌舐めずりをした。

 

元々、今日はこの加賀一族の弟子を公開処刑することが本郷が乂門として与えられた任務であった。

しかして、晴男が藤浪に負けたせいで、公開処刑は不可能となった。

ならば、トーナメントを続ける必要はない。

 

今、本郷太郎がすべきことはひとつ。

眠る矢吹晴男の腕を腱を骨を粉々にして二度と立ち上がって戦えない身体にすること。

「今日のディナーだ」

本郷太郎は狂気の笑みを浮かべた。