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最強格闘家になろう 第四十六話「ラストマンスタンディング」

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決勝目前、藤浪ドラゴンは選手入場口で自分の身体を見下ろした。全身青痣だらけだ。

打撲、裂傷、数えればキリがないだろう。

激闘に次ぐ激闘だった。

キャットファイトの猫田、ハロウィン力士の原、そして「矢吹流」の矢吹晴男。

いずれも強敵であった。一度として楽な試合はなかった。

すごい奴らだ。

最強は自分であると信じて疑っていなかった。しかし、それがどうだ?最強を自負していた自分がここまでボロボロにされている。

負けられない…だが為に戦う?自分の為に戦う、それもあるが、しかし、今はほんの少し、あいつら、強敵(とも)の為に戦うのも悪くはないと藤浪ドラゴンは思った。

 

 

 

 

山口ヴィクロヴィッチタッカーシーは折れた左腕をテーピングで、顔面の下半分を包帯でぐるぐると巻き折れた下顎と鼻を固めた。

 

少しでも危ないと思ったら止めるからね

 

そう、今大会の専門医は言った。

その他の箇所もズタボロだった。無傷の箇所がない。

 

決勝はそう長いこと戦えないだろう。

限界をとうに超えている。

一撃、一撃にかける。

山口はそう心に誓った。

 

 

決勝戦!!藤浪ドラゴン対山口ヴィクロヴィッチタッカーシー!!!

 

2人はマットの上で向かい合った時、お互いの姿を見て笑った。

なんだ、お前、ボロボロじゃないか、そうだよな、このトーナメント凄かったよな。

今から決勝戦なんだってな、戦うの俺らだぜ?そんなに傷だらけで戦えるのかよ、戦うしかねえよな。それが格闘家ってもんだよな。

2人は言葉を交わさなかったが、奇妙な親近感を感じた。

お互い人生の大半を戦いに捧げてきた。

そして今、決勝の舞台に立っている。

手加減は出来ないし、するつもりもない。

 

これで死んでもいいかもな…

 

山口はふとそう思った。

そう思った自分がおかしくて仕方がなかった。

死ぬ?なんてこと考えたんだ俺は。

藤浪を見る。目線が合った。

2人はまるでウブなカップルのように照れて笑った。

今から死闘を演じる相手とは思えなかった。

 

それでも戦わなければならない。

優勝の栄誉はただ1人にのみ与えられるのだ。

 

試合開始の合図がなる。

 

その瞬間、藤浪は胴タックルを山口にぶちかましに行った。が、それを読んでいたのか、山口がカウンターでハイキックを藤浪の顔面にたたき込んだ。

藤浪は大きく怯む。山口は右手を大きくふりかぶり、前腕を鞭のようにしならせて藤浪にロシアンフックを叩き込もうと拳を振った。

藤浪はその拳を額で受け止めた。額から山口の拳が砕けるのを感じた。

その勢いで山口に抱きつきに行く。

しかし、その瞬間、藤浪の頭部に大きな衝撃が走った。

山口が折れた左腕でアッパーカットを藤浪の顎に叩き込んだのだ。

山口の左腕から折れた白い骨が肉と皮を突き破り露出した。

藤浪の顎は粉砕した。血が口から吹き出る。

完璧に藤浪の意識が途切れた。

 

藤浪の下顎を捉えた左腕の手応えが山口に勝利を確信させた。

目の前で倒れ込んでいく藤浪。

しかし、藤浪は倒れる寸前で山口の胴に抱きついた。

勝利の甘い確信が山口を半歩出遅れさせた。

気付いたときには山口の身体は宙に浮き、視界には武道館の天井が映る。

まずい、と思う間もなく、風景が流れていく、三階席、二階席、そして一階席。

そして暗転。山口は意識を失った。

 

藤浪のジャーマンスープレックスホールドが炸裂した。

 

藤浪は意識を失った後も、山口を捉え、更には投げ飛ばしたのであった。

 

藤浪は山口を投げ飛ばした後、立ち上がった。

観客が大歓声を送る。

割れんばかりの声が武道館に響く。

 

優勝!藤浪ドラゴン!

 

しかし、藤浪は動かない。

意識を完全に失っているのであった。

失いつつも、藤浪は立っていたのであった。

 

武道館の観客の大歓声が止むことはなかった。