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真・最強格闘家になろう 第五話「神の依代」

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甘かった。そう琴春菊が思った時、明らかに手遅れであった。

 

ドームでの総合格闘技イベント。そこで琴春菊が相対しているのは、現役横綱の

黒鵬(こくほう)である。

 

モンゴル出身のこの力士は休場なし、10場所連続優勝。破竹の勢いで白星を稼いでいる史上最強とも言われている横綱である。

 

そんな黒鵬と琴春菊はオクタゴンのリングの中で相対している。

 

黒鵬は前代未聞の男であった。

相撲こそが最強であると信じて疑わない彼は相撲協会や横綱審議委員会を説得し、現役力士としては初の異種格闘技戦への参加を表明した。

 

力士何するものぞ。総合格闘技の、ボクシングの、柔道の雄達が黒鵬と試合をしたが、そのいずれも黒鵬が勝利を収めている。

 

そして黒鵬の対戦相手として白羽の矢が当たったのが琴春菊であった。元力士で総合に移行後は負けなし、まさに黒鵬の相手としてはこれ以上ない人選であった。

 

琴春菊も幾ら相手が最強力士とは言え、総合格闘技の経験が浅い黒鵬相手に遅れを取ることはないと踏んでいた。

 

それだけの自信が琴春菊にはあった。

 

美のカリスマ、ジェンダーレスの旗手としての活動も宣伝できるし、これは美味しい試合だぞ。と琴春菊は思っていた。

 

しかし、その自信は黒鵬と向かい合った瞬間に音を立てて崩れ去った。

両手を深く広げた不知火型で構える黒鵬。

ふんどしを巻き、頭はマゲを結っている。

一見すると肥満に見えるその身体は実は全身筋肉の鎧を身につけ、そしてなによりも立ち会ってみて気がつく、黒鵬の肉体的、そして神の依代である横綱が待ち合わせる圧力に気圧されていた。

 

黒鵬が一歩前に出た。続けてもう一歩。

舐めるな。琴春菊は黒鵬の足に向かいローキックを喰らわせた。バチンと骨と骨がぶつかる音が響く。

琴春菊は足に違和感を感じた。人を何度も何度も蹴り、突き、投げてきた彼だからこそ分かる違和感。鉄を蹴った様な感触であったのだ。

 

驚き、黒鵬を見つめると、黒鵬は笑っていた。

琴春菊も笑った。絶望のあまりである。

 

黒鵬の張り手が飛び、琴春菊の顔にぶち当たった。破裂音が場内に響く。観客のボルテージがマックスに上がる。

 

その一発で琴春菊の100キロを超える巨大は後方に吹っ飛び、金網にぶち当たった。

レフェリーが慌てて止めに入る。一発で勝負を決してしまったのである。

 

寝っ転がって鼻血を垂らしながら、朦朧とする中、琴春菊は自分の顔を触って確認した。

 

「良かった…顔…ある…」そう言って琴春菊は意識を失った。

 

 

勝利者インタビュー。

リング上でマイクを渡された黒鵬が観客を見渡して言う。

 

 

「皆さん、分かって頂けましたか。相撲こそが最強なのです。おい、加賀流の奴ら見てるか…俺らが最強だ!!!異論があるのなら、いつでも相手してやるぜ!!!」

 

その際の写真とコメントは翌日のスポーツ新聞の一面を飾った。