有限会社MUGEN本舗

ゲーム、バンド、漫画、映画、小説、なんでもブログ

真・最強格闘家になろう第七話「二匹の若虎」

 

f:id:yuugentmugen:20200709105509j:image

 

 

新幹線のボックス席。

そこに座る3人の男は異様な姿だった。

 

まずデカい。全員の身体が常人のそれとは比較にならないくらいの厚みがあった。

 

1人は無精髭をたくわえ、髪はボサボサの山の様な大男であった。目は小さく、鼻は潰れ、耳は湧いていた。所謂餃子耳である。

男の隣の席は空になった缶ビールの山が出来ていた。

 

その大男の反対側の席に座っているのは長身の若い男であった。長い金髪を後ろで結んでいる。顔は童顔だが、どこか野性味がある色男であった。男は手鏡を持ち、ピンセットで自分の眉毛を整えるのに夢中になっている。

 

その隣にいる男もまた異様であった。目方は平均的な身長であるが、ぶっとい首に分厚い胸をしており、猛禽類を思わせる鋭い眼光でただ目の前を睨みつけている。腕を組んでいるが、その腕もまた太い。髪は短く、五分刈りにしていた。

 

前田ヴァギナ、炎山キヨシ、桜井数也であった。

 

 

周りの席の乗客がざわついている。

 

あれ、寿の前田じゃね?

向かい合って座ってるのは?

あれだよ、若手の桜井と炎山だよ

やべー、やっぱりデカいな

サイン貰おうかな俺

 

「目立ちますね、3人一緒だと」

 

桜井がポツリとつぶやいた。

 

「馬鹿野郎、目立たせてんだよ。こうやって目撃談が多いと加賀流ぶっ潰した時に信憑性がでるだろ」

 

 

前田が豪快に笑う。

 

この桜井と言う男は前田が直々に加賀流狩りに選抜した男である。

 

桜井数也。齢25歳。炎山よりも3つ年上である。

 

寿日本プロレス、新人王に輝いた期待の新人であった。

 

桜井はプロレスラーにしては小さい173センチの身長ながら、怪力と抜群のテクニックの持ち主で若手で一番プロレスが上手いと言われている。

 

しかし、それだけではない。

 

桜井の異常性に気がついたのは前田であった。

 

数年前、まだ桜井のデビュー前の話である。

 

前田が桜井を含む研修生達の練習を見ていた時、ある事に気がついた。

桜井はブレーンバスターやバックドロップと言う所謂プロレス的な技ではなく、腕がらみやアキレス腱固めの様な実戦で使える技ばかり練習しているのだ。

 

「おい、桜井、ちょっと来い」

 

前田が桜井を呼ぶ。汗だくになった桜井が前田の前に立つ。ウス、なんでしょう?

 

「お前、なんでそんな地味な技ばっか練習してんだ?」

 

「自分、喧嘩に負けたくないんです」

 

「てめえ、ウチに喧嘩の仕方習いにきてんのかぶっ殺すぞ」

 

前田が凄む。周りの研修生達は一瞬動きを止めて、前田の方を見やった。前田がキレる。そう思うだけで彼らの背筋は凍った。

 

「違います」

 

桜井は毅然とした態度で答えた。

 

「自分、プロレスが好きです。死ぬほど好きです。だからこそ、いざ、街で喧嘩売られた時、負けたくないんです。自分はプロレスラーです。自分の負けがプロレスの負けになると思うと怖くて怖くて、だから負けない練習もしたいんです」

 

「生意気言ってんじゃねえぞ、このタコが、コラ」

 

前田のビンタが飛ぶ、平手が桜井の顔面にぶちあたり、桜井は吹っ飛んだ。

 

「そういう事はよ、基本身につけてから言えや、コラ」

 

「基本は出来てる自信あります」

 

口から出る血を拭いながら桜井が答える。

 

ほぉ、そこまで言うならやってもらおうか。

 

前田は数人の若手を呼び、桜井に自身が指定した技を若手相手にかけさせた。

 

ブレーンバスター、バックドロップ、ボディスラム、どれを取っても桜井が繰り出す技は美しかった。

 

「おい、お前、桜井の野郎、そこいらのレスラーよりも上手いじゃねえか…」

 

前田は近くにいた若手に声をかけた。

 

「桜井、あいつ、死ぬほど練習してるんですよ。合同練習終わった後も個人練習を日に5時間くらいはしてます。あいつ、練習の鬼ですよ」

 

寿日本プロレスの練習は過酷な事で知られている。新入生は3日経って1人残ってれば良い方と言われるほどである。

そんな練習を毎日こなした後、個人練習を5時間。

 

前田はリングの上で技をかけ続ける桜井を見ながら、『こいつ…使えるな…』と内心思ったのであった。

 

桜井にはこんな逸話がある。

若手数人で飯を食いにいった時、桜井達の隣の席で飯を食べていたヤンチャそうな若者達がプロレスをくさし始めたのである。

 

あいつらデカいだけだからよ

台本ねえとなんにも出来ねえ

戦ったら俺のがつええよ

 

無論、桜井達が手を出せないのを知っていての発言である。

 

桜井はすっと立ち上がり、そのヤンチャな青年達の前に立った。

 

おい、なんだよ?

やんのか?

 

青年達が凄んで見せる。

 

大将、スプーンって一本いくらだい?

 

桜井が大声でキッチンにいる大将に声をかける。

 

へぇ、100円もしやせん

 

大将はおっかなびっくり答える。

 

これ、俺の会計につけといてくれや

 

そう言うと、桜井はヤンチャな青年達が使っていたスプーンを片手でひょいと掴んだ。

掴んだ手に力を入れる。するとみるみるウチにスプーンが折れ曲がっていく。

 

スプーンが真っ二つに折れた。それをまた拾い上げる。今度はそれを指で挟み四つ折りに折り曲げる。今度は4つに折れたスプーンを片手で包み込み、ギュッと万力の力を込める。

パッと手を離すと、テーブルの上にコロンと銀の球体が転がっていた。

スプーンを片手の腕力のみで球体に変えて見せたのである。

 

呆気にとられる若者達。

そんな若者の首を優しく桜井は掴み、自身の口を彼の耳元に近づけてこう言った。

 

「で、プロレスがなんだって?」

 

若者は、いえ、あの、なんでもありません。すいませんでした。

 

とだけ言い。急いで席を立って店を出て行った。

 

狂気のプロレス愛を持つ超人。それが桜井数也であった。

 

そんな桜井の力を使う時が来たのである。加賀流狩りにこれほどピッタリな奴もいねえと前田は笑った。

 

「どうでもいいんだけどさぁ、前田さぁん、この仕事っていつ終わるんスカ?俺、来週の日曜デートなんすよねえ」

 

そう言ったのは炎山であった。

寿日本プロレスの中でも前田にそんな口がきける人間は社長アントキノと炎山くらいなものである。

 

「お前、前田さんに失礼だぞ…炎山」

 

前田が答える前に桜井が炎山に凄んで見せた。

上下関係を重んじる昔気質の桜井と軟派で軽い炎山は水と油であった。

 

「なんすかぁ?先輩?こんな程度で怒るほど前田さんは小さい男じゃねえっすよ、ねぇ、前田さん?」

 

ニカッと炎山は前田に微笑みかけた。炎山はどこか憎めない男であった。生意気な可愛い後輩。それが炎山のポジションである。

しかし、それは、異様な才能を持っているからこそ獲得できた地位でもある。

 

高校生にしてレスリング日本代表に選出された経験を持つ炎山。

彼は寿日本プロレスで唯一社長アントキノが直々にスカウトした男であった。

 

桜井と炎山が睨み合う、今にも取っ組み合いになりそうな雰囲気だ。

桜井は思う。なぜ、前田さんは俺と炎山を今回同行させたのだろうか。俺たちが犬猿であることは知っているはずだろうに。

 

恵まれたガタイを持ち、生え抜きで、入塾した時からスター扱いの炎山。恵まれぬ体躯で生まれ、叩き上げで、血の滲むような練習の末に新人王になった桜井。あまりにも対照的な2人であった。

 

 

「やめねえか、2人とも。炎山、今回はおめえがスターになる為の仕事だ。女の1人や2人我慢しやがれ。桜井、そんなに炎山に突っ掛かってやんなや。炎山びびっちまうだろうが。今晩はあれだな、親睦会も兼ねて、着いたら飲みに行くか」

 

ガハハハと笑う前田を他所に2人は睨み合った。

 

新幹線は3人を加賀流の道場のあるとある地方都市へと運んでいった。