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存在の耐えられない軽さにおける愛とは?

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先日、この存在の耐えられない軽さを読了した。なにやら20世紀最高の恋愛小説と言われているらしく、てっきり『ノッティングヒルの恋人』的なラブコメを想像していたがいい意味で裏切られた。

 

これは恋愛小説というよりも、愛についての哲学的な問いかけなのである。

 

・冒頭作者によって語られる命題

 

重要な命題は冒頭作者によって語られる。

つまり、ニーチェの永劫回帰とパルメニテーゼの軽さと重さの問いかけである。

ニーチェは我々が永遠に同じことを繰り返していると言う永劫回帰という説を解いた。

その為に我々は「永劫回帰の世界ではわれわれの一つ一つの動きに耐えがたい責任の重さがある」と作者は言っている。

では重さは悪いことなのだろうか?

パルメニテーゼはこう言っている。『軽さが肯定的で、重さが否定的』

 

と、ここまで書いても、難しすぎてピンとこない。そこで個人的にかなりざっくりとした解釈で読み進めていくことにした。

つまるところ、この小説の命題をざっくり要約すると…

 

『人生は重い荷物を背負った方が良いのか?軽い方が良いのか?そしてそれらをもたらすのは偶然なのか?それとも運命なのか?』

 

ということではないだろうか?

 

・あらすじ(主人公トマーシュが背負う重さ)

 

命題が提示された後、物語は始まる。

この話は特定の恋人は作るつもりがなかったプレイボーイの外科医トマーシュは、さまざまな偶然の重なりにより、テレザという女性と結婚、つまりは重荷を背負うことになるのだ。

 

彼女との出会い、そして彼女を強く愛してしまうことは全くの予想外であったトマーシュ。

 

結婚してからも軽さを求めて、異常なまでにさまざまな女性と逢瀬を重ねていく。

 

そんな折に、物語の舞台チェコで『プラハの春』が起こりソ連がチェコに介入。トマーシュとテレザは海外に亡命するが、テレザはトマーシュとの生活に疲れ、1人チェコに帰国してしまう。

 

居なくなって初めて彼女の大切さに気がついたトマーシュはテレザを追いかけてチェコへと帰る。その際、彼はベートーベンのとある詩を胸に思い浮かべる。

 

それは『そうでなければならない!』

 

彼はプラハに戻り、またしても重さを背負うことになるのだ。

 

プラハに戻ったはいいものの、トマーシュは運命の悪戯で外科医と言う職を失い、窓拭きにまで身を落とす。テレザも生活に疲れ、2人は田舎に引っ越すことを決める。

 

田舎で2人の愛犬カレーニンが死ぬなど悲しい出来事が起きるが、田舎で穏やかに暮らすことになるが、最後は唐突な事故で死ぬことが暗示されつつ物語は幕を下ろす。

 

・全ては、『そうでなければならない!』そしてその先にあった安らぎ。

 

以上がざっくりとした物語のあらすじであるが、この物語がなにを言いたいかと言うと、

 

『我々は重さも軽さも選択などできず、全ては必然』

 

と言うことではないだろうか?

トマーシュは飄々と生きていたかったが、テレザと運命的に出会ってしまった。

それは望むと望まざるに関わらず必然だったのだ。そして、ほとんど抵抗すら出来ずに重さを背負うことになる。

この不可抗力を雄弁に語る一言が、そうでなければならない!なのである。

 

つまり、愛や恋(重さ)とはコントロール不可能なものであり、不可避の運命なのだ。事故と一緒で『背負うときは背負う』もの。

 

とは言え、愛が『不可避の現象』であったからといってそれで踏ん切りがつくほど人は単純ではない。

 

テレザもトマーシュも結婚したことに散々思い悩み、2人は時に傷つけ合い、時に思いやりながら、『この人は私と出会わなければもっと良い人生を送っていたのでは?』という考えを胸に秘めている。

 

物語の終盤、2人はお互いがお互いに『この人は私と出会わなければ〜』と思っていたことを知り、すっと心の中の重さが消え、2人の心に平穏が訪れるのである。

 

そんな2人とは対照的に描かれるのが、サビナである。彼女はトマーシュの数多い愛人の一人。彼女は軽さを求めて、家族を作ることなく、人生の最後まで軽さを選択し続けた様が描かれる。

 

・普遍的な愛をめぐる話。

 

ここまで劇的なドラマはないが、この小説のお話は俺たちの生活にも起こりうることだ。

 

例えば、好きでもない女の子となぜか付き合ってしまったり、パートナーに対する責任感から相手のことが煩わしくなったり、そんな時、我々は『どうして付き合ってしまったんだろう?』『彼女は彼は私がいない方が幸せなんじゃないか?』なんて考える。

 

しかし、全ての出来事は、そうでなければならない!なのである。

我々はトマーシュとテレザのように思い悩み苦しみ、必然に振り回され続ける運命なのである。

 

一方、そういったシガラミを避けることを選んだサビナは、トマーシュとテレザの死を知ったとき、自分の身に『存在の耐えられない軽さ』が襲ったことを悟るのだ。

 

つまるところ、軽さを選んでもまた運命に翻弄されると言う点では同じなのである。

 

小説の中で『重さと軽さ』どちらが良いか回答は明示されない。

だからこそ、読了した後に深い余韻を残すのだ。

 

めちゃくちゃ難しい小説で一読しただけでは整理できていない部分が多々あると会うので、また何か気がついたことがあれば今後も追加していきたい。