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自己紹介とこれまで創作したものまとめ

 こんにちは、牛丼一筋46億年です。

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小説、漫画、詩、エッセイをこのブログで日々発表しております。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

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『異世界転生してきた勇者がいるそうだが、地方で衛兵やってる俺らにはまったく関係ない件』

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学園ラブコメ猫娘アクション

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スターウォーズ沼

 

2018年ベスト

 

真・最強格闘家になろう 第十話「ガチのプロレスラー」

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「やめましょう、原さん」

 

山口は炎山と原の間に割って入る。

 

「やめとけ、炎山」

 

桜井も同様に割って入る。

 

「先輩、俺ら矢吹の闇討ちに来たんすよね…なら野試合に慣れておくべきかな〜って思うんすよ。ね、やっちゃいましょうよ」

 

桜井は黙した。

炎山キヨシの喧嘩が見たくないと言えば嘘になる。尊敬する先輩達が天才と言っているこの男がどんなものなのか測ってみたい。

しかし、炎山に何かあれば、警察沙汰や負傷があれば、俺は悔やんでも悔みきれない…

 

ただ、桜井もまた一匹の雄であった。

色濃い戦いの気配を嗅ぎ取った桜井の内にも欲求が渦巻いていた。

喧嘩を見てえ…なんなら俺もぶん殴りあいたい…その機会が目の前にぶら下がってやがるんだ…

日々、喧嘩の為、負けぬための練習を続ける桜井ならではの思考であった。

 

 

「…何かあれば止める」

 

桜井は一言そう言うと、スッと後ろに下がった。

 

さっすが、先輩っす。と炎山は嬉しそうに言った。

 

「相手がそう言ってんだ。お言葉に甘えさせてもらおうぜ」

 

と原は言った。もう、山口が止めても無駄であった。

 

 

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4人は路地裏に広い空き地を見つけた。

喧嘩をするにはおあつらえ向きだ。

地面は土なので投げてもコンクリートほど重傷にはなるまい。

 

炎山と桜井、原と山口は向かい合って立っていた。

 

「お前、原龍徳だろ?wHoのデドロスをぶっ飛ばした」

 

桜井が原に言う。

 

「へー、俺のこと知ってるんだ」

 

「三流レスラーをぶっ飛ばしたくらいでいい気になるなよ…」

 

桜井が原を睨みつける。

 

「そうっすよぉ〜…俺らはそんなマイナー団体じゃなくて、天下の寿のレスラーっすから」

 

炎山が腰に手を当てて言う。

 

その時、山口は2人が一体何者なのか気がついた。

 

炎山キヨシと桜井数也だ。

 

寿日本プロレスの期待の若手2人…

 

半端な相手ではない。

 

これは大変なことになったぞ…なぜ2人がここにいる。

 

「コイツと原が立ち会う。セコンドは俺とそこの眼鏡の兄ちゃん。セコンドが危険だと判断した時点で試合を止める。勝敗はどちらかのギブアップ、もしくは気絶など戦闘不能になるまで、これでいいな?」

 

桜井が言う。

 

と、炎山と原が一歩ずつ前に出た。

お互いの殺気と殺気がぶつかり合う。

ぶつかり、混ざり、膨張し、その密度が濃く大きくなっていく。殺気の円が2人を中心に大きく大きくなっていく、それが限界を超えて弾けた時、炎山が動いた。

 

姿勢を低くして、原の腰に向かいタックルをぶちかましに行った。

と同時に、原はアンダースロー気味に拳を振り下ろす。原の拳が地面をえぐり、振り上げた瞬間に宙に砂が舞い上がる。

 

砂はタックルしてきた炎山の顔面に直撃した。

炎山は目を瞑る。まずいっすね〜…と炎山が思った矢先、彼の頭部に激痛が走った。

 

原が炎山の頭を腋に抱え込み縛り上げている。

ヘッドロックである。

 

これは先の乂門との対抗戦でデドロスが原相手に使った技であった。

ハロウィン力士は仮装の天才でもある。つまり、模写の天才だ。

一度見た技なら簡単なものならすぐに真似できる。

 

「おら、もう終わりか?あんちゃん?」

 

原が腋に抱え込んだ炎山に言う。

 

「後ろからのチョークなら決まってたかもしれないっすね〜おっしーなー」

 

炎山がこともなげに言う。

すると炎山はぐるりと自らの腕を原の腹部に巻きつけて、ロックした。

 

まさか、原がそう思ったと同時に彼の身体は宙に浮いていた。

視界が目まぐるしく変わっていく、ビル、空、ビル、そして頭上に見える地面…

 

後頭部に衝撃が走る。

炎山はヘッドロックされながらも裏投げ、つまりバックドロップを放ったのであった。

 

大の字に寝っ転がる原。

早く立たねば!!!身体を起こそうとする原に炎山がのしかかる。

 

「マウントポジションゲットぉ〜、これで逆転っすね。これがガチのプロレスラーっすよ」

 

上から炎山の拳が原の顔面を捉えた。

ひたすらガードを上げる原。

マウントポジションの際はあまりに体重を乗せてパンチを打つと体勢が崩れやすくなり、マウントポジションを維持できない。

その為、手の力のみを使った打撃となる為、一撃で勝負は決しにくい。

耐えればまだ逆転のチャンスはある。

 

原は炎山の打撃を耐えた。

 

山口がその姿を見て、奥歯を噛み締める。

みるみる内に出血で顔を血で染めていく原。その顔面は腫れて膨れ上がっていく。

限界だ。

 

「原さんの負けだ。やめろ」

 

山口がそう叫ぶ。

 

「うるせえ!!!まだ勝負はついてねえ!!!」

 

原が炎山の下で叫ぶ。

 

「こう言ってますよぉ〜」

 

炎山は笑いながら尚も原を殴り続けた。

 

だめだ。これ以上は。

山口は拳を握りしめ走り出した。

 

「御免!!!」

 

そう言うと、炎山を原から引き剥がすため、炎山の肩に狙いをつけて拳を突き出した。

 

その動きを察知した桜井は、山口の前に立ちはだかり、炎山に向かって突き出された拳を手でキャッチした。

セコンドの介入があればそこで試合終了。そう言ったのは桜井だった。

 

山口の打撃は明らかにダメージを負わすための打撃ではなく、引き離すための押す打撃であった。

それを止めると言うことは自らが申し出たルールを反故にする様なものだった。

 

山口の打撃を止めたのはほとんど反射だった。

 

炎山キヨシはどんなに腹立たしい男であろうと、会社の期待のエース。つまり財産である。それを傷つけられそうになった時、自然と身体が動いたのである。

プロレスを、会社を愛する桜井らしい行動であった。

 

山口は打撃を止めた桜井の腕に飛びついた。

サンビスト山口。彼のこの技も反射から出た。

飛びつき腕ひしぎ十字固めである。

 

山口の身体が桜井の腕に絡みつく。

 

山口の誤算は…

 

山口の誤算は桜井が倒れなかったことであった。桜井は山口の体重を片手で支えている。

それどころか、桜井の腕はグググっと天に向かって伸びていく。その腕には山口。

まるで山口は木に捕まるコアラの様に桜井の腕にしがみついていた。

凄まじい怪力無双であった。

 

 

そのまま、ボディスラムの様に地面に山口を叩きつける。

尚も十字固めを狙うため腕を離さない山口。

もう一度、とばかりに桜井は腕を持ち上げた。

 

その時であった。山口を持ち上げる桜井、原を殴る炎山。2人が同時に凄まじい闘気を感じた。

刺す様な鋭いプレッシャーである。

そのプレッシャーを感じる方を見れば男が1人立っている。

 

「俺の友人達と何をしている?」

 

そう言ったのは藤浪ドラゴンであった。

 

 

 

真・最強格闘家になろう 第九話「引力」

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下衆際は前田が落ちるのを確認したと同時に出口目掛けて走り出した。

 

人をかき分け階段を駆け下りる。

 

あと数分もすれば騒ぎを聞きつけた警察官が押し寄せるだろう。

 

その前に逃げてしまわないと。

 

一階に降りれば、人の群れを縫う様に走り去っていく、人々の罵声、怒声を背に浴びながら走り抜ける。

 

そして、出口。このまま夜の闇に消えよう。

 

そう思い、店の敷居を跨いだ瞬間目に飛び込んできたのは、木製のベンチだった。ベンチが自分の顔面めがけて高速で近づいてくる。

 

下衆際は全てがスローモーションに見えた。

 

な!?なんで!?

 

木製のベンチが顔面に激突するや否や、その衝撃たるや凄まじく、下衆際の身体が半回転して後頭部から地面に叩きつけられた。

 

「ラウンド2ぅ…」

 

前田がベンチで下衆際をぶん殴ったのである。

地上に叩きつけられるも、前田には2つの僥倖があった。

 

それは落ちた場所がゴミ捨て場であり、ゴミがクッションになった事、そして、山口から習っていた受け身を取れたお陰で衝撃が軽減した事である。

 

勿論、それを差し引いても地上にぶち当たった衝撃たるや凄まじかったのだが、一重に前田を立ち上がらせたのは下衆際への激しい怒りからであった。

 

この野郎、ただじゃおかねえ

 

殆ど執念のみで立ち上がり、店に再度入ろうとした瞬間、二階から降りてくる下衆際が見えた。

前田は店の前に置かれていたベンチを両手で持ち上げて下衆際にぶち当てたのであった。

 

木製のベンチが砕けちる。

倒れ込んだ下衆際を見下ろす前田。

もう容赦しねえ…

前田はすぐさま足を振り上げて、かかとで下衆際の顔面を踏み抜いた。

 

が、前田の足には踏み抜いた感触がない。

視線を落とせば下衆際はすんでのところで首を曲げてかかとを回避していた。

 

下衆際の顔は血だらけで、木片が顔中に突き刺さり、痛々しいなんてものじゃなかった。意識があるのがおかしい程の怪我だった。

 

ガラ空きだぜ

 

下衆際がそう言って笑った。

前田は本日幾度目かの失態を犯していた。

 

これは実戦から身を引き、ヒリヒリした修羅の日常から脱し、所謂普通の生活を送っていたが為に生まれた油断だった。

 

無防備な股間を敵に晒してしまっているのである。

 

下から下衆際が掌底を前田の股間に叩き込む。

正拳ではなく、掌底にしたのは、衝突面の凹凸を少なくして確実に睾丸を潰す為である。

 

前田が雄叫びを上げて倒れ込んだ。口から泡を吹き、目は白目になり、身体は痙攣している。

 

そして、ズボンの股間部分は潰れた睾丸から滲み出た血で赤く染まっていた。

 

「なかなか強かったぜ」

 

下衆際はそう言うと立ち上がり、夜の街へと走り去って行った。

 

 

「なんか、さっきから後ろが騒がしくないか?」

 

原がそう言うと山口と藤浪が立ち止まり後ろを見つめる。

 

その頃、原達がいた居酒屋では前田と下衆際が死闘を繰り広げているところであった。

 

が、そんな事知る由もない3人は気のせいじゃない?なんて事を言いながら夜の街を歩いていた。

 

すると、突然、藤浪が

 

「ちょっと雑誌を買いたい」

 

と言い出した。

 

「お前、今買わなくてもいいだろ」

 

「いや、今日が週刊デコレーショントラックの発売日だってうっかり忘れてた。ニッチな雑誌なもんでな、今日買わないと店頭から消えてしまうのだ…」

 

 

ちょっと待っててくれ、と言って藤浪は近くのコンビニの中に入って行った。

 

残された原と山口は仕方なくコンビニの外で藤浪を待つ。

 

原はボンヤリと夜空を見上げていた。

明日仕事かー、やだなー、まあ、また頑張るかー、なんて事を1人考えていた。

 

一方、山口は自分達が歩いてきた道を眺めていた。歩いてきた方角から歩いてくる人々の様子がおかしいのだ。

何か色めき立っている様な印象を受ける。

そして、決めては微かに聞こえてくるサイレンの音だ。

 

それがドンドン近づいてくる。

 

何かが起こったのだ。それも悪いことが、胸騒ぎがする。

 

山口は身体が自然と熱くなっていくのを感じていた。

 

身体が備えている。何に?

 

決まっている。戦いにだ。

 

じゃあ、誰と?

 

今日は何かが起こる…

 

それは、武に人生の殆どを費やした山口だからこそ感じ取れるシックスセンスであった。

 

すると、人混みの中から一際大きな体をした2人組がこちらに歩いてくるのが分かった。

 

1人は金髪を後ろで束ねている色男だ。身体はデカく厚い。逆三角形の均整の取れた身体をしている。

 

その隣に歩いている男は背が幾らかその男よりも低い。が、体の分厚さは劣らず、いや、この男の方が肉厚で筋肉の鎧を全身に纏っている。

 

その2人がこちらに近づいてきている。

前から歩いてくる2人は俺たちに気がついていないが、俺は感じ取っている。

 

この2人が今日戦う相手だ。

 

もう酔いはすっかり抜けていた。

アルコールの代わりにアドレナリンが全身を駆け巡る。

 

 

 

 

「前田さん飲み過ぎなんすよ…あの人…アルハラですよ!!!アルハラ!!!」

 

炎山は口を尖らせて桜井に詰め寄る。

 

「うるさい、帰って寝るぞ」

 

桜井は素っ気なくそう返す。

 

街に着き、前田、桜井、炎山の3人で酒を飲みに行ったはいいものの、前田の酒乱が酷く、前田は飲み終わるや否や桜井と炎山を残して、「お前ら先帰ってろ」と言い、歓楽街へと姿を消してしまった。

 

仕方なく2人で宿泊先のホテルへと帰る途中であった。

 

「もぉ、あーあ、飲み会中にこんなに女の子たちからのLINE溜まっちゃってるよ」

 

炎山はスマホを見てため息をついた。

 

おい、と桜井は声をかける暇もなかった。

 

炎山がスマホを見ながら歩いていたその真ん前に空を見上げている青年がいたのだ。

 

 

2人の青年、原と炎山は図らずもぶつかってしまった。

 

「いってえ〜、すいませぇん。だいじょうぶっすかぁ〜?」

 

と炎山は間延びした声でぶつかった男に話しかけるも、内心、炎山の心はざわついた。

 

この男、100キロ以上ある俺とぶつかって、身じろぎひとつしなかった。それどころか、ぶつかった俺の方が少し後ずさってしまったくらいだ。

 

こいつ強いな…それもかなり

 

「おう、こちらこそボーッとしてたわ…わりぃ」

 

原はにこやかに炎山にそう返した。

 

が、原の心中も穏やかではなかった。

 

男とぶつかった瞬間、肌を合わせた瞬間、原は理解した。ハロウィン力士として数多の男達を相手にぶつかっていった彼だからこそ分かる直感。

 

この金髪の兄ちゃんは強い。それも相当に

 

 

2人の心は燃えたぎったが、しかし、2人はそれを隠して軽い会釈の後、炎山は歩き、原はまた空を見上げた。

 

 

原の、そして炎山の姿を見て山口はホッとしていた。格闘家とは言え、武人とは言え、無益な争いは避けられるものならば避けたい。

無闇やたらと拳を払うのは彼の信条に反している。今夜あの2人と戦うと感じていたなんて、思い過ごしだったのだ。

 

 

しかし、原と炎山の心中たるや…

 

隠しても隠しても溢れ出る欲望。こいつと戦ってみてえ…

超A級の雄と雄が出会ってしまった。

それもお互い力比べの大好きな超雄同士がである。

これは性に飢えに飢えた男と性に飢えに飢えた女が出会ったのに等しい。

 

つまり、SEX(喧嘩)は当然の帰着。

 

 

炎山は踵を返して、原の元へと走っていた。

桜井が『おい!!!』と呼び止めるも声は聞こえていなかった。

 

 

原にしてもそうだ。空を見上げるのをピタリとやめ、炎山が歩いていった方角へと歩みを無造作に進めていた。

山口が『原さん!!!』と呼び止める声は聞こえていなかった。

 

炎山と原が道の真ん中で睨み合う。

すると、原が軽く頭突きを炎山の額にくらわせた。そしてお互いデコとデコをくっつけてメンチを切りあった。それは獣がする様に歯をむき出しにしての威嚇であった。

 

「謝りましたけど、あれ、撤回します。気に食わないっすわ」

 

炎山が言う。

 

「奇遇だな…俺もだぜ」

 

原もそれに答えた。

 

2人は歯を見せて獣の様に威嚇しあっているが、それは笑っている様にも見えた。

真・最強格闘家になろう 第八話「強襲」

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ここはとある地方都市の繁華街の一角。

道には提灯や看板が立ち並ぶ飲み屋街である。

 

そのうちの1つ。安くて早い雑多な居酒屋。若い客が多い。賑わう居酒屋、その2階で4人の男は酒を酌み交わしていた。

 

「だから、いたんですよ!!!本当に宇宙人は!!!」

 

そう語るのは小太りの眼鏡男子。山口・サンドロヴィッチ・タッカーシーであった。

 

サンボの達人である彼は乂門との対抗戦の最中UFOに連れ去られてしまったが、最近、山中で発見され、とある病院に入院させられていたが、ようやく退院したところであった。

 

「嘘くせえ!!!」

 

そう吐き捨てるのは白いシャツに金のネックレスをつけた今風のガタイのいい兄ちゃんであった。原龍徳である。

ハロウィン相撲の横綱にして、先の乂門との対決ではデッドロスと死闘を繰り広げた男である。

 

「しかし、無事で何より」

 

そう言ったのはプロレスラーの様な逞しい体躯の持ち主藤浪ドラゴンである。

喧嘩凸最強トーナメント優勝者である剛の者である。彼はドラゴンカーセックスと言う特殊性癖を格闘術にまで昇華した男である。

 

 

「本当だぜ、お前が行方不明って聞いて心配したんだぜ」

 

 

そう言ったのは、目元が隠れるほどに前髪が長い色白の青年であった。前田修人である。

彼は喧嘩凸板と言うインターネット掲示板の住人を狩り続けていた狂気の人であったが、喧嘩凸トーナメントで山口と戦い改心。

それからは山口の友人として行動することが多い。

 

 

4人は喧嘩凸トーナメントと乂門対抗戦を通じ、友情が芽生え、いつしか定期的に飲み会を開催するほどになっていた。

 

 

この日は山口の快気祝いとしてこうして酒を酌み交わしているのであった。

 

「おっといけねえや、もうこんな時間か…俺はもうそろそろ帰るぜ。明日仕事が早えんだ」

 

 

前田が腕時計を見て呟く。

前田は喧嘩凸トーナメント後、山口の勧めで山口が懇意にしているトレーニングジムの社員として働き始めたのであった。

一生懸命に働くので職場での評判はすこぶるいい。

 

 

「おう、またな」

「仕事遅れぬよう」

「頑張って下さい!!!ファイトです!!!」

 

 

それぞれが別れを告げる。前田は手を振り席を後にした。

 

「俺たちの頑張りのおかげで日本に平和が戻って良かったな」

 

原が自慢げにそう言う。

彼が言う通り、彼ら加賀一派が乂門を打ち破ったからこそ、日本は元ある姿に戻ったのであった。

 

「して、加賀さんや矢吹は元気だろうか?スティーピーはよくCMで見かけるが…」

 

藤浪ドラゴンがそう言う。

 

「大丈夫っすよ!!!あの人たちが元気じゃない姿なんて、俺は想像できないですよ!!!」

 

山口が笑って言う。

相変わらず、見た人を笑顔にさせる太陽の様な笑顔であった。

 

その通りだな。と3人は笑った。

 

さて、宴もたけなわとなり、3人は一階にあるレジで会計をしようかと立ち上がった。

 

藤浪、原、山口の順に他の客達を避けながら階段へ向かう。

2階は満席であった。4つのテーブル席と3つの座敷テーブルは全て人で埋まっており賑やかであった。そう、そこに誰が座っているのか分からないほどに人でごった返していた。

 

藤浪が階段を降りる、続けて原が、そして山口が…山口が階段に一歩足をかけた時、ぬっと山口の後ろに黒い影が見えた。

影は腰を落とし、左腕を前に出し、右手を引いて狙いを定める。正拳突きの構えである。

 

呼吸を意識する、吸う、吐く、吸う、今、影は力を入れて山口に殴りかかろうとした。

が、右手は前に突き出される事はなかった。

 

山口は酔いも手伝い、後ろの影には気がつくこともなく、階段を下りきっていった。

 

その影が右腕を突き出す瞬間に、後ろから右手を何者かにぐいと掴まれ、引っ張られたのである。

その為、バランスを崩し、正拳突きを繰り出すに至らなかった。

 

「なんだぁあ?てめえ?さっきから俺らのことジロジロ見てやがったなぁ?」

 

影の二の腕を後ろから引っ張りながら男が言う。それは前田修人であった。

前田は飲み会中から何者かが視線をこちらに向けていることに気がついていた。

 

あからさまな視線ではないが、気をこちらに向けている。それは分かった。

 

闇の格闘家として修羅を歩んだ前田だからこそ分かった殺気である。

それに気がついた前田は席を後にした様に見せかけて、再び入店し、後ろから藤浪、原、山口をつけ狙う男に注意していたのであった。

 

そして、階段で山口を後ろから殴り飛ばそうとする男を確保したのであった。

 

「やるねぇ…ニイちゃん…」

 

男は振り向いて前田にそう言った。

その男、目は釣り上がり、口は大きかった。

嫌らしい顔をした男であった。

 

その男の名前は下衆際矢場男である。

 

「なんで、山口をぶん殴ろうとした?」

 

 

「へ、撒き餌だよ、撒き餌。とある男をおびき寄せる為に、その男のお友達を半殺しにしとこうかなって思ってな」

 

「とある男?」

 

「そう、とある男だよ」

 

言いながら、下衆際は右腕を思い切り、振り上げる。その勢いで、前田の手が剥がれた。

そして、振り下ろし、前田の鳩尾に肘鉄砲を喰らわした。

 

前田の身体がくの字に折れ曲がる。

すぐさま下衆際は前田の頭を引っ掴み、顔面に右膝をぶち当てた。

 

下衆際は膝に前田の鼻が折れる、ゴギリと言う音を感じて、勝利を確信した。

 

裏格闘家、何するものぞ…

 

思わず笑みが溢れた。が、しかし、次の瞬間、下衆際の身体が宙に浮いていた。

 

前田が、膝蹴りを食らいながらも、下衆際の両腿をひっ捕まえて、力任せにぶん投げたのである。

 

下衆際は他の超進の3人に比べて細身ではあるが、それでも80キロはゆうにある。

その下衆際を力任せにぶん投げる前田の胆力たるや凄まじかった。

 

下衆際が飲み屋のテーブルの上にどしゃりと落ち、テーブルの酒が、瓶が、皿が、料理が飛び散る。途端にそのテーブルで酒を酌み交わしていた客達が悲鳴を上げて席を離れた。

 

なんだ、喧嘩か?

早く店員呼んでこい!!!

 

2階で酒を楽しんでいた客達から怒号が飛び交う。

 

「…やるぅ」

 

下衆際が嬉しそうにテーブルの上で立ち上がった。その身体は酒と料理に塗れ、汚れていた。彼の頭から揚げ豆腐が転がり落ちる。

 

「鍛えてるからな」

 

前田が答えると同時に、下衆際は振りかぶって投げた!!!

 

何を!?それを視認する前に前田の頬に痛みが走る。

 

手で確認すると、それは串焼きの串であった。

串が頬に突き刺さっているのだ。

 

下衆際は串を前田に投げつけたのだ。

 

ただの串でも武を修めた格闘家が持てば凶器となる。

 

下衆際はニヤリと笑った。その両手にはいっぱいの串がある。

 

まずい、前田が思う間もなく、下衆際は振りかぶって投げる投げる投げる。

 

ドスドスドスドス

前田の鍛え抜かれた身体に串が突き刺さっていく。

 

前田は反射的に両腕をクロスさせ、目を覆った。それは考えての行動ではなく、反射であった。

 

しまった。そう前田は思う。

戦いの真っ只中で自分から視力を遮断させると言う愚の骨頂。

目をひとつ奪われたとしても、相手を見ておくべきであった。

そう気づくまでガードを固めてから0.5秒。

 

手を開き、視界を取り戻したその時、眼前には下衆際がいた。

 

下衆際は宙に浮かび、体を半回転させていた。

 

跳び後ろ回し蹴りである。

蹴りが前田の胴体をぶち抜いた。

 

吹っ飛ぶ前田。

 

まずい、後ろは!!!

 

前田がそう思う。

 

そう、後ろは窓ガラス。つまり、このままいけば、2階から落下。重症は免れない。

 

グッと力を両手に加える。

 

前田はガラスに後ろからぶち当たり、背後でバリンと言う音とともにガラスが割れるのを感じた。

 

が、両手を窓枠にかけてすんでのところで落ちるのを回避した。

 

両手の端から血が滴り落ちる。

 

ほっと息をついた前田であったが、前田の腹部に下衆際の前蹴りが飛ぶ。

その拍子に手が窓枠から滑り落ちる。

 

嘘だろ…

 

前田の身体は宙に投げ出され、夜の闇に消えた。

 

「矢吹晴男に伝えな!!!お前がこの街にやってこない限り、俺達はお前の仲間を1人残らずぶっ潰してやるってな!!!」

 

割れたガラスに向かって下衆際が吠えた。

真・最強格闘家になろう第七話「二匹の若虎」

 

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新幹線のボックス席。

そこに座る3人の男は異様な姿だった。

 

まずデカい。全員の身体が常人のそれとは比較にならないくらいの厚みがあった。

 

1人は無精髭をたくわえ、髪はボサボサの山の様な大男であった。目は小さく、鼻は潰れ、耳は湧いていた。所謂餃子耳である。

男の隣の席は空になった缶ビールの山が出来ていた。

 

その大男の反対側の席に座っているのは長身の若い男であった。長い金髪を後ろで結んでいる。顔は童顔だが、どこか野性味がある色男であった。男は手鏡を持ち、ピンセットで自分の眉毛を整えるのに夢中になっている。

 

その隣にいる男もまた異様であった。目方は平均的な身長であるが、ぶっとい首に分厚い胸をしており、猛禽類を思わせる鋭い眼光でただ目の前を睨みつけている。腕を組んでいるが、その腕もまた太い。髪は短く、五分刈りにしていた。

 

前田ヴァギナ、炎山キヨシ、桜井数也であった。

 

 

周りの席の乗客がざわついている。

 

あれ、寿の前田じゃね?

向かい合って座ってるのは?

あれだよ、若手の桜井と炎山だよ

やべー、やっぱりデカいな

サイン貰おうかな俺

 

「目立ちますね、3人一緒だと」

 

桜井がポツリとつぶやいた。

 

「馬鹿野郎、目立たせてんだよ。こうやって目撃談が多いと加賀流ぶっ潰した時に信憑性がでるだろ」

 

 

前田が豪快に笑う。

 

この桜井と言う男は前田が直々に加賀流狩りに選抜した男である。

 

桜井数也。齢25歳。炎山よりも3つ年上である。

 

寿日本プロレス、新人王に輝いた期待の新人であった。

 

桜井はプロレスラーにしては小さい173センチの身長ながら、怪力と抜群のテクニックの持ち主で若手で一番プロレスが上手いと言われている。

 

しかし、それだけではない。

 

桜井の異常性に気がついたのは前田であった。

 

数年前、まだ桜井のデビュー前の話である。

 

前田が桜井を含む研修生達の練習を見ていた時、ある事に気がついた。

桜井はブレーンバスターやバックドロップと言う所謂プロレス的な技ではなく、腕がらみやアキレス腱固めの様な実戦で使える技ばかり練習しているのだ。

 

「おい、桜井、ちょっと来い」

 

前田が桜井を呼ぶ。汗だくになった桜井が前田の前に立つ。ウス、なんでしょう?

 

「お前、なんでそんな地味な技ばっか練習してんだ?」

 

「自分、喧嘩に負けたくないんです」

 

「てめえ、ウチに喧嘩の仕方習いにきてんのかぶっ殺すぞ」

 

前田が凄む。周りの研修生達は一瞬動きを止めて、前田の方を見やった。前田がキレる。そう思うだけで彼らの背筋は凍った。

 

「違います」

 

桜井は毅然とした態度で答えた。

 

「自分、プロレスが好きです。死ぬほど好きです。だからこそ、いざ、街で喧嘩売られた時、負けたくないんです。自分はプロレスラーです。自分の負けがプロレスの負けになると思うと怖くて怖くて、だから負けない練習もしたいんです」

 

「生意気言ってんじゃねえぞ、このタコが、コラ」

 

前田のビンタが飛ぶ、平手が桜井の顔面にぶちあたり、桜井は吹っ飛んだ。

 

「そういう事はよ、基本身につけてから言えや、コラ」

 

「基本は出来てる自信あります」

 

口から出る血を拭いながら桜井が答える。

 

ほぉ、そこまで言うならやってもらおうか。

 

前田は数人の若手を呼び、桜井に自身が指定した技を若手相手にかけさせた。

 

ブレーンバスター、バックドロップ、ボディスラム、どれを取っても桜井が繰り出す技は美しかった。

 

「おい、お前、桜井の野郎、そこいらのレスラーよりも上手いじゃねえか…」

 

前田は近くにいた若手に声をかけた。

 

「桜井、あいつ、死ぬほど練習してるんですよ。合同練習終わった後も個人練習を日に5時間くらいはしてます。あいつ、練習の鬼ですよ」

 

寿日本プロレスの練習は過酷な事で知られている。新入生は3日経って1人残ってれば良い方と言われるほどである。

そんな練習を毎日こなした後、個人練習を5時間。

 

前田はリングの上で技をかけ続ける桜井を見ながら、『こいつ…使えるな…』と内心思ったのであった。

 

桜井にはこんな逸話がある。

若手数人で飯を食いにいった時、桜井達の隣の席で飯を食べていたヤンチャそうな若者達がプロレスをくさし始めたのである。

 

あいつらデカいだけだからよ

台本ねえとなんにも出来ねえ

戦ったら俺のがつええよ

 

無論、桜井達が手を出せないのを知っていての発言である。

 

桜井はすっと立ち上がり、そのヤンチャな青年達の前に立った。

 

おい、なんだよ?

やんのか?

 

青年達が凄んで見せる。

 

大将、スプーンって一本いくらだい?

 

桜井が大声でキッチンにいる大将に声をかける。

 

へぇ、100円もしやせん

 

大将はおっかなびっくり答える。

 

これ、俺の会計につけといてくれや

 

そう言うと、桜井はヤンチャな青年達が使っていたスプーンを片手でひょいと掴んだ。

掴んだ手に力を入れる。するとみるみるウチにスプーンが折れ曲がっていく。

 

スプーンが真っ二つに折れた。それをまた拾い上げる。今度はそれを指で挟み四つ折りに折り曲げる。今度は4つに折れたスプーンを片手で包み込み、ギュッと万力の力を込める。

パッと手を離すと、テーブルの上にコロンと銀の球体が転がっていた。

スプーンを片手の腕力のみで球体に変えて見せたのである。

 

呆気にとられる若者達。

そんな若者の首を優しく桜井は掴み、自身の口を彼の耳元に近づけてこう言った。

 

「で、プロレスがなんだって?」

 

若者は、いえ、あの、なんでもありません。すいませんでした。

 

とだけ言い。急いで席を立って店を出て行った。

 

狂気のプロレス愛を持つ超人。それが桜井数也であった。

 

そんな桜井の力を使う時が来たのである。加賀流狩りにこれほどピッタリな奴もいねえと前田は笑った。

 

「どうでもいいんだけどさぁ、前田さぁん、この仕事っていつ終わるんスカ?俺、来週の日曜デートなんすよねえ」

 

そう言ったのは炎山であった。

寿日本プロレスの中でも前田にそんな口がきける人間は社長アントキノと炎山くらいなものである。

 

「お前、前田さんに失礼だぞ…炎山」

 

前田が答える前に桜井が炎山に凄んで見せた。

上下関係を重んじる昔気質の桜井と軟派で軽い炎山は水と油であった。

 

「なんすかぁ?先輩?こんな程度で怒るほど前田さんは小さい男じゃねえっすよ、ねぇ、前田さん?」

 

ニカッと炎山は前田に微笑みかけた。炎山はどこか憎めない男であった。生意気な可愛い後輩。それが炎山のポジションである。

しかし、それは、異様な才能を持っているからこそ獲得できた地位でもある。

 

高校生にしてレスリング日本代表に選出された経験を持つ炎山。

彼は寿日本プロレスで唯一社長アントキノが直々にスカウトした男であった。

 

桜井と炎山が睨み合う、今にも取っ組み合いになりそうな雰囲気だ。

桜井は思う。なぜ、前田さんは俺と炎山を今回同行させたのだろうか。俺たちが犬猿であることは知っているはずだろうに。

 

恵まれたガタイを持ち、生え抜きで、入塾した時からスター扱いの炎山。恵まれぬ体躯で生まれ、叩き上げで、血の滲むような練習の末に新人王になった桜井。あまりにも対照的な2人であった。

 

 

「やめねえか、2人とも。炎山、今回はおめえがスターになる為の仕事だ。女の1人や2人我慢しやがれ。桜井、そんなに炎山に突っ掛かってやんなや。炎山びびっちまうだろうが。今晩はあれだな、親睦会も兼ねて、着いたら飲みに行くか」

 

ガハハハと笑う前田を他所に2人は睨み合った。

 

新幹線は3人を加賀流の道場のあるとある地方都市へと運んでいった。

 

 

真・最強格闘家になろう 第六話「二度目の逮捕」

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楊 梁が4つの団体の男たちについて語り終えた時、加賀八明はふっとため息をついた。

 

「ならほど…つまり、俺は四面楚歌ってわけか」

 

「その通りだ。幾らお前でもこれだけのメンツを一度に相手出来まい。昔馴染みのよしみだ。少しの間匿ってやろうか?」

 

楊 梁がそう言うと、加賀八明はピタリと止まった。そして、笑った。その笑顔はこの世の凶事を全て内包した様な底知れない歪な笑みであった。

 

「楊 梁、俺が負けると思ってるのかい?」

 

楊 梁は思わず、手に持っていた湯飲みを落としそうになった。

確かに、この男が誰かに負ける姿など想像できない…しかし…

 

そう思っていた時に、応接間の扉をノックする音が響いた。

 

「そろそろ来ると思っていたが…」

 

加賀八明はそう言ってニヤリと笑った。

 

扉が開くと、数人の警察官がそこにいた。

 

「加賀八明…お前は違法な額の受講料を塾生から取っていると聞いた。しかも、脱税の疑いもある。暑まで来てもらおうか…」

 

ふふふ…と加賀は笑い立ち上がった。そして、その手に手錠がかけられた。

 

「どうやら匿ってもらう必要はなくなった様だな」

 

楊 梁を見てそう笑った。そして、楊 梁は笑うしかなかった。

 

おら!!!歩け!!!この詐欺師が!!!

楊 梁はそう若手警官に言われながら歩いていく加賀をただ後ろから見つめるだけであった。

 

 

ところ変わって加賀八明道場がある地方都市。都市の中心地にある最大のターミナル駅に4人の男たちはいた。

男達は駅から出て、人でごった返すタクシー乗り場の近くにあるベンチに腰を下ろしている。

 

花木薫

佐山大海

矢部二郎

下衆際矢場男

 

である。

 

「どれ、せっかくだし、観光も兼ねて、名物のエビフライでも食いにいくか?」

 

そう言って下衆際は笑った。

 

この4人、花木、佐山は同期、下衆際は花木達の2年後輩、矢部は1年先輩と歳が近く、4人は幼年部から同じ道場で汗をながし、同じ釜の飯を食った竹馬の友であった。

4人が4人とも突出した才能を見せ、今ではそれぞれ道場の師範代をしている。

 

「下衆際さんの言う通り、腹が減っては何とやら、ご飯でも食べに行きますか…」

 

花木がそう言うと4人は近くの定食屋に行った。

 

4人が入ったのは古ぼけた定食屋であった。

老夫婦が2人で営んでいる小さな定食屋。

こう言うところのが美味いんだよなと下衆際が決めたのであった。

カウンターに1人の老人がいるだけでそれ以外客は花木達4人だけであった。

 

「さて、どうやって加賀と矢吹の首をとる?」

 

エビフライ定食をかき込みながら花木が皆にそう言った。

4人で集まるといつも花木が話の中心になる。下衆際が茶化し、佐山が優しく笑い、矢部が同調し、花木がまとめる。それがこの4人の常である。

 

「普通に考えれば加賀は道場にいるだろう。矢吹の居場所はわからんが、師匠が倒されれば出てくるさ」

 

佐山が味噌汁をすすり、そう言った。

 

ならば、正攻法で道場に行くかとなった時、下衆際がはぁとため息をついた。

 

「先輩方は昔から甘いなぁ…よしんば加賀をぶちのめしても道場なら塾生達が俺らの事五体満足に返さんでしょ。塾長は俺らに首とったら帰ってこいって言うとるんでしょ?ならキッチリと自分の足で帰らんと」

 

「なら、下衆際はどうすべきだと思う?」

花木が聞く。

 

「闇討ちしかないでしょ。武人なら卑怯とは言わなんだろ」

 

「俺は賛成しかねる」

 

佐山がキッパリとした口調で言った。

 

「加賀を倒した後、もしも塾生が襲ってきたら1人残らず叩きのめす。これが超進だ」

 

下衆際がボリボリと頭を掻きながら面倒臭そうに欠伸した。

 

「…ぼ…僕は下衆際くんに賛成です…4人で殴り込みなんて…げ…現実的じゃない」

 

オドオドとした口調で矢部がそう言う。

 

「ではこうしてはいかがでしょう?」

 

花木が手を打って皆を注目させる。

 

「4人で固まって行動するのではなく、各々が各々の方法で加賀を狩る。大人数相手には固まっているよりもゲリラ戦の方が有効。それよりも、なによりも…」

 

花木がそこで言葉を切り、ニヤリと笑った。

 

「ここにいる4人とも我こそが加賀を倒さんと思っているでしょ?なら下手に協力するよりも、競争した方が建設的…」

 

なるほど、それは良い案だと他の3人はうなづいた。

 

戦力を分散することになれど、不安がる者は0人。4人が4人とも己の武に絶大な自信があるからこその結論であった。

真・最強格闘家になろう 第五話「神の依代」

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甘かった。そう琴春菊が思った時、明らかに手遅れであった。

 

ドームでの総合格闘技イベント。そこで琴春菊が相対しているのは、現役横綱の

黒鵬(こくほう)である。

 

モンゴル出身のこの力士は休場なし、10場所連続優勝。破竹の勢いで白星を稼いでいる史上最強とも言われている横綱である。

 

そんな黒鵬と琴春菊はオクタゴンのリングの中で相対している。

 

黒鵬は前代未聞の男であった。

相撲こそが最強であると信じて疑わない彼は相撲協会や横綱審議委員会を説得し、現役力士としては初の異種格闘技戦への参加を表明した。

 

力士何するものぞ。総合格闘技の、ボクシングの、柔道の雄達が黒鵬と試合をしたが、そのいずれも黒鵬が勝利を収めている。

 

そして黒鵬の対戦相手として白羽の矢が当たったのが琴春菊であった。元力士で総合に移行後は負けなし、まさに黒鵬の相手としてはこれ以上ない人選であった。

 

琴春菊も幾ら相手が最強力士とは言え、総合格闘技の経験が浅い黒鵬相手に遅れを取ることはないと踏んでいた。

 

それだけの自信が琴春菊にはあった。

 

美のカリスマ、ジェンダーレスの旗手としての活動も宣伝できるし、これは美味しい試合だぞ。と琴春菊は思っていた。

 

しかし、その自信は黒鵬と向かい合った瞬間に音を立てて崩れ去った。

両手を深く広げた不知火型で構える黒鵬。

ふんどしを巻き、頭はマゲを結っている。

一見すると肥満に見えるその身体は実は全身筋肉の鎧を身につけ、そしてなによりも立ち会ってみて気がつく、黒鵬の肉体的、そして神の依代である横綱が待ち合わせる圧力に気圧されていた。

 

黒鵬が一歩前に出た。続けてもう一歩。

舐めるな。琴春菊は黒鵬の足に向かいローキックを喰らわせた。バチンと骨と骨がぶつかる音が響く。

琴春菊は足に違和感を感じた。人を何度も何度も蹴り、突き、投げてきた彼だからこそ分かる違和感。鉄を蹴った様な感触であったのだ。

 

驚き、黒鵬を見つめると、黒鵬は笑っていた。

琴春菊も笑った。絶望のあまりである。

 

黒鵬の張り手が飛び、琴春菊の顔にぶち当たった。破裂音が場内に響く。観客のボルテージがマックスに上がる。

 

その一発で琴春菊の100キロを超える巨大は後方に吹っ飛び、金網にぶち当たった。

レフェリーが慌てて止めに入る。一発で勝負を決してしまったのである。

 

寝っ転がって鼻血を垂らしながら、朦朧とする中、琴春菊は自分の顔を触って確認した。

 

「良かった…顔…ある…」そう言って琴春菊は意識を失った。

 

 

勝利者インタビュー。

リング上でマイクを渡された黒鵬が観客を見渡して言う。

 

 

「皆さん、分かって頂けましたか。相撲こそが最強なのです。おい、加賀流の奴ら見てるか…俺らが最強だ!!!異論があるのなら、いつでも相手してやるぜ!!!」

 

その際の写真とコメントは翌日のスポーツ新聞の一面を飾った。

真・最強格闘家になろう 第四話「鬼」

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講道館柔道の歴史には鬼と呼ばれる男が3人いた。

1人は柔道の創始者嘉納治五郎の高弟である横山作次郎。明治神宮大会を3連覇した牛島辰熊。そして、歴代最強柔道家と言われ、力道山との疑惑の勝負により表舞台を去った木村政彦である。

 

木村政彦から数えて50年以上の時が経った今。新たに鬼と呼ばれる4人目の男が出現した。

 

それが、豊田一光(いっこう)である。

 

豊田は鬼神の様な強さで全日本大会4連覇、そしてオリンピック柔道無差別級2連覇を成し遂げた稀代の柔道家である。

 

そんな豊田が記者会見に現れた。

先のオリンピックで金メダルを獲った為の囲み取材であった。

 

報道陣の前に現れた男は異様な姿であった。

金髪を撫でつけ、顔は化粧をしている。

濃いアイシャドーに潤んだピンクの唇。

そう、豊田一光は美のカリスマとしても知られており、そのジェンダーレスな見た目と愛嬌のあるキャラクターはお茶の間で人気となっている。

 

「豊田さん、やりましたね、2連覇。今のお気持ちをお聞かせください」

 

記者の1人がそう聞くと、マイク越しに豊田は答えた。

 

「もぉおお〜ヤダァー!!!強烈ぅう〜!!!」

 

全く要領を得ない回答であるが、会見場は笑いで溢れていた。

 

「最強と言えば、最近話題の加賀流ですが、戦ったら勝てますか?」

 

ある記者が豊田にそう聞いた。その瞬間であった、豊田の顔から笑みが消えた。

 

「……技あり」

 

豊田は無表情で一言だけそう言った。

豊田の周りの風景だけがグニャリと曲がった様に見えた。彼の殺気が漏れ出て、そのように空間を歪ませているのである。

 

技あり…とは、つまり、どう言うことなのか?

皆、そう思ったが、殺気だった豊田の前では誰も聞くことが出来なかった。

 

「ヤダァ〜!!!加賀流とかぁ〜分かんないけどぉ〜、私が負けるわけないでしょぉおお!!!!」

 

そう言うと豊田は目の前のマイクを手に取った。すると彼は雑巾しぼりの要領でマイクをしぼり上げた。

 

鉄で出来たマイクスタンドがねじ曲がっていく。完璧にねじ曲げたマイクをポイと投げ捨てながら豊田はこう言った。

 

「一本取ってえい、技ありぃいい!!!」

 

豊田は笑みを浮かべていたが、その笑みの下で燃えたぎる様な怒りを隠し切れていなかった。

 

取材はここまでとなった。

 

豊田一光。通称鬼の一光は腹に据えかねていたのである。

 

古くは木村政彦の敗北。そして現代においては加賀流のせいで、最強最新たる柔道が軽んじられている。それが我慢できなかった。

 

取材を終え、控室に戻る豊田一光。

その隣には豊田のコーチである三谷満具路武(まんぐろぶ)とセコンドである日系ブラジル人のナーガグランデーバがいた。

 

「ちょっと一光、さっきのどうしたの?」

三谷が豊田に声をかける。

 

「そうよ、一光、あんた、ちょっと熱くなりすぎ」

ナーガも横から豊田をなだめる。

 

「…だけ」

 

豊田一光のくぐもった声が漏れ出た。

 

え?聞き取れなかった為、三谷とナーガが聞き返す。

 

「加賀流の首、とるだけ〜!!!」

 

豊田はその言葉を残して行方をくらませた。