たった数ページで完結するショートショートの巨人星新一の自選短編集が『ボッコちゃん』であり、数ある星新一の作品の中でも最高傑作の呼び声が高い。
学生時代に一読したことがあり、その時は『星新一のショーショートは読みやすいし、面白いし最高や!』と思ったのを覚えている。
大人になった今読み返すとなかなか印象が違う。
言い切り型の歯切れの良い文章、簡潔かつテンポの良い展開などは勝手知ったるモノだったが、その内容に驚かされた。
表題作ボッコちゃんを含め、かなり多くの作品が登場人物の『死』で終わるのだ。
それ以外にも『犯罪』などエキセントリックな内容が多く、流し読みすれば子供向けのSFだが、その実、かなり血生臭い内容となっている。
これはひとえに、死こそ最上のエンターテイメント、つまり、人生に起こる最大のカタストロフな訳であり、その一瞬を切り取ることで、数ページながらも満足感のある余韻をこの短編集は担保しているのではなかろうか?
一番印象的な話は、最後に収録された
『最後の地球人』だ。
少子化によって滅亡する人類、そして、最後に残された一組の男女はアダムとイブとなり、2人が産んだ子供は『神』となり、創造主として地球を再び再建していくであらう予感を漂わせて物語は終わる。
このお話はカタストロフがいきつき『人類の終わり』という最大の滅亡、更に言えば、結構起こりうるであろう最後まで、行き着くところまで行ってしまう作品である。
しかし、滅亡で終わることなく、最後に残された子供が、地球を再建していく予感は、仏教やヒンドゥー教の世界観を思い出させる。
つまり、輪廻であり、創造と破壊の表裏一体である。
星新一はこの本を作るために、数多くのカタストロフ(破壊)を行った。
まさに、この本を代表する1作と言えよう。