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緩やかなグレー『チルドレン』

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チルドレンは2004年に発売された伊坂幸太郎の短編連作である。

大人気作家伊坂幸太郎の初期作品として人気のこの本の感想を今回は書いていこうと思う。

 

・あらすじ

 

ギターを愛する風変わりな青年陣内を中心に巻き起こる5つの不思議な事件を描く本作

 

・『バンク』

陣内とその友人鴨居は銀行強盗に遭遇し、人質として捕えられる。そこで出会ったのが、同じく人質にされていた盲目の青年永瀬とその盲導犬ベス。永瀬は銀行強盗の様子がおかしいと言うのだが…

 

・『チルドレン』

バンクから13年後、家裁の調査官となった陣内とその後輩武藤はおかしな親子と出会う。そして起こる誘拐事件。その真相は…

 

・『レトリーバー』

永瀬の恋人、優子が過去を思い出す形で語られる本作。思い人に振られた陣内は公園に永瀬と優子を置いてどこかへ消えてしまう。数時間後、帰ってきた陣内は『世界が止まってしまった』と騒ぎ出す。

 

・『チルドレンⅡ』

チルドレンから1年後を描く。今度は離婚を担当することになった武藤はプレイボーイな大学教授と、そのヒステリックな妻に頭を悩ます。

そして、その頃、陣内はとある青年を担当しており…

 

・『イン』

再び過去に戻り、永瀬の視点からデパートの屋上で陣内の巻き起こす『ケジメ』の顛末が語られる。

 

・絶妙に続きが読めない面白さ

 

久しぶりに伊坂幸太郎作品を読んだけれど、やっぱり面白い。最初は陣内のキャラが鼻についたが、読み進めていくうちに謎が謎を呼ぶ展開に引き込まれた。

 

誰かが言っていたが、物語の基本はwhyの連続。話を進めてbecauseを小出しにして、読書を引き込むのが鉄則だそうだ。

 

伊坂幸太郎ほどこのwhyが巧みな人もそういないのではなかろうか?

続きが気になり、読み進め、事件の真相を予想するのだが、結末が毎回絶妙に読めないナナメ上な終わり方をする。

これにカタルシスを感じ、一気に読み終えてしまった。

 

・緩やかなグレー

 

本作で気になったのは、一作一作は計算された緻密な作りをしているのに、連作として見たとき、そのつながりは非常に曖昧であることだ。

 

表題のチルドレンが表す通り、この連作は子供たちをテーマにして描かれている。

 

本作に出てくる子供たち軽犯罪に手を染めている者が多く、さらに罪悪感の意識も低い。

そんな彼らを陣内は作中、

 

「子供のことを英語でチャイルドというけれど、複数形になるとチャイルズじゃなくて、チルドレンだろ?別物になるんだろ」

 

さて、ではそんな彼らがなぜ犯罪に手を染めるのかと言うと、それは親との問題である場合がほとんどだ。

主人公、陣内も高圧的でありながら買春をしていた父親にひどく落胆し、ひどく捻じ曲がった人物になっている。(その為か彼自身は大人になり、子供に寄り添う家裁の道を選ぶことになった)

 

では、そんな親と子供。子供の犯罪について、この連作は何かしらの答えを出すのかというと、そう言う説教臭さは一切ない。

 

罪を犯した子供は最低ではないし、だからと言って実はいいやつでもない、ただ、見放すこともしない。

 

そう言う絶妙な立ち位置で子供達を見つめる本作はある意味とても現実的であり、白黒つけない穏やかなグレーと言ったところだろう。

 

テーゼに対して敢えて答えを突きつけないこの小説はどこか優しい。

作品同士の繋がりが緩やかなところも一役かっているし、ラストの『イン』の終わり方も劇的でもなく、ただ日々がこの後も続いていく予感を感じさせて終わる。

ハリウッドのサスペンス映画というよりは、穏やかな写実的な作風といったところであり、どこまでも現実的な作品だった。

まさに初期の傑作と言える!