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第八回「家にたどり着けない」岐阜県:墨俣城

 心霊スポットはね、時空が歪むんですよ。

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 自称霊感のある友人にそんな事を言われた。曰く、心霊現象がよく起こる地域では地場が歪み、体感速度が遅くなったり、物音が急にピタリと止んだりするそうだ。

 

 はいはい、と聞き流していたが、数年前に起こった出来事が脳裏をかすめ、これはもしかすると、正論かも知れんぞ…なんて思った。

 


 数年前、ちょうど俺が大学を卒業して就職した頃のこと、当時付き合っていた彼女の岐阜の実家に遊びに行った。

 彼女のお母さんが作ってくれた手料理を食べて談笑したり、彼女の部屋で卒アルを見てひと通り盛り上がったあと、ちょっと2人でそこら辺をドライブしようという流れになった。

 


 俺の車に乗って、彼女と喫茶店に行ったり、彼女の通っていた学校の近くをフラフラと走っていれば、もうすっかり夜になっていた。

 


 そろそろ帰んなきゃね、というと彼女は

 そう言えばさ、歴史好きだよね?ここら辺にお城あるんだよ

 そう言ってくれたので、スマホで調べると、確かに近くにお城があった。

 


 そのお城は一夜城の名で知られている墨俣城だ。かつて戦国時代に豊臣秀吉が一夜にして城をその地に築き、織田信長が美濃制圧の拠点にした城だ。

 

 なるほど、それは見なくては!ということで、家に帰る前に墨俣城に向かった。

 

 墨俣城に着く頃にはすっかり夜になってしまっていた。墨俣城は川辺に鎮座しており、ライトアップなどはされておらず、ただ頼りない月明かりに照らされているだけだった。

 小さいとは知っていたが、想像よりもだいぶこじんまりとしている。

 本当は車から降りて、近くまで行ってみたかったのだが、夜遅くまで彼女を連れ回すのも、彼女の家族の手前いかがなものかと思っていたので、車内からチラリと見ただけで、その日は家に帰ることにした。

 


 カーナビに彼女の家の住所を設定して、車を発進させる。地図上に表示された黄色い線に沿って走る。

 しばらく走っていると、彼女も俺も妙な違和感に襲われた。

 


 「あれ、これさ、元の場所に戻ってない?」

 


そう、カーナビは堤防を走らせたあと、ぐるりと一周してまた墨俣城に我々を案内したのだった。

 


「マジかよ、そんなことある?」

 


と笑う俺。

とりあえず、もう一回車を走らせるも、車はまた墨俣城にたどり着く。

 


 私のスマホでナビするね

 


 と言ってその日は彼女がナビをして俺を案内し、無事我々は彼女の家まで辿り着くことができた。

 


 その日は不思議なことがあるもんだね!

 車のナビ壊れちゃったのかな?

 と何にも思っていなかったのだが、友人の話を聞いた後だと話が違ってくる。

 


 つまり、あの日の体験は墨俣城が起こした怪異ではないか?ということだ。

 


 気になって調べてみれば、出てくる出てくる、墨俣城付近での心霊情報。

 曰く付きのトイレ、曰く付きの病院、夜に女の泣く声が聞こえるetcetc…

 更に調べれば、一夜城周辺はかつて岡場所、つまり遊女達の居場所でもあったわけだ。

 戦国の時代は戦場、そして江戸時代には遊郭。そんな場所、何が起こってもおかしくない。

 


 あの日、俺と彼女を迷わせていたのは果たして、壊れたナビか、侍か、遊女か、それとも、全く関係のない、何かなのか…それはわからない。

 


 ちなみに彼女とはその後すぐに分かれた。