アルケミストー夢を旅した少年ーは日本では馴染みがあまりないが、世界中で大ヒットしたベストセラーだ。
作者パウロ・コエーリョはブラジル人。2度世界中を放浪した後にアルケミストを書き上げた作家である。
今作は小説というよりかはどちらかというと寓話的な要素が多く、世界中を旅したパウロ・コエーリョの人生論が本書のメインである。
あらすじは、羊飼いの少年が廃屋の教会で宝物をピラミッドで得る夢を見て、夢を信じ、海を渡り、砂漠を超えてピラミッドを目指しながら人生の知恵を学んでいくと言うものである。
・夢を追うことの重要性
この本が言いたいことはざっくりいうと
『人生で本当に行うべきことをせよ』
に集約されていると思う。
主人公の少年は夢を見て、その夢に従い旅に出る。旅の途中、彼は大金持ちになったり愛する人を見つけ、旅を辞めようと何度もするが、決して立ち止まることなく夢に向かって歩み続けるのだ。
なぜならば、ピラミッドに行くことこそ、彼の本当にすべきことであり、それを放棄して安定を手にした時、人は『冒険して手に入れたかも知れないモノ』に囚われて生きるしかなくなるからだ。
作中出てくるクリスタル屋の主人は、人生で一度はメッカに行きたかった。しかし、彼は行かない、行かないのだ。夢を実現できるだけの財力も時間もあるのに、夢を掴むことを恐れて立ち往生し続けてしまう。
彼はメッカに行けたかも知れない自分によって生かされ続けていると語る。つまり、彼はメッカに行きたいが、もしも行って失望したらと思うと怖くて行けないのである。
このように、作中では夢に従いひた走る主人公と、夢を諦めたり夢を信じないモノ達との対比が前半では描かれ、更に後半では、主人公が旅の果てに愛についての哲学を理解するパートに分かれている。
・夢と現実の物語
非常に寓話じみた話なのだが、その構成を紐解くとなかなか面白い。
主人公、夢を教会で見る
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夢を信じて旅に出る
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ピラミッドで宝はピラミッドではなく、教会にあると知る
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主人公は冒頭の教会で宝を手にする。
つまり、彼は夢(精神世界)を旅することにより精神的成長を遂げ、冒頭ではなんの変哲もなかった教会(現実)が、ラストでは宝物のありかになっているのだ。
これは幸せな青い鳥とよく似ている。
我々は現実を豊かにする為に安定やお金を手にしたいと強く願う。しかし、本当に現実を豊かにするのは、自分が何をすべきか、つまり、自分の夢に従い日々生きることこそが、日常を金に変える錬金術だよ、とこの本は言いたいのではなかろうか?